相互関税のドル円への影響

さて、改めて相互関税によるドル円への影響を考えてみた場合、ドル安円高圧力、ドル高円安圧力のどちらの影響もあると考えられます。

出所:内田氏

まず、相互関税によりリスク回避で株価が下がる場合、円高方向の材料となります。株安が続くと、為替市場では円買いの反応が出やすいからです。また、FRBの利上げ前倒しという話が出た場合もドルが下がることによって、ドル円が下がることは当然起こり得ます。それから為替報告書にも注目です。毎年4月と10月に公表されることになっており、円安牽制の有無に注目です。

一方、円安材料も少なくありません。まずリスク回避の動きは円安の材料にもなります。究極のリスク回避はポジションの手じまいだからです。いまだに投機筋は記録的な円ロングを持っており、リスク回避により円ロング取り崩しによる円売りが出る可能性があります。

それから、日銀の利上げ観測の後退も円安方向の材料になります。日本の貿易赤字が相互関税によって拡大することも円安の材料です。たとえば昨年、日本は米国に約21兆円輸出していますが、関税の影響で輸出が減少すれば、貿易赤字が拡大します。

また、関税を避けるために米国国内での生産力を高めることを狙った米国向けの直接投資が拡大する場合も、円安材料です。

実際、韓国の現代自動車が米国での投資を決定しており、スウェーデンのボルボも米国での生産力拡大のための投資を検討しています。

最後に、今後の注目材料を見ていきます。4月7日週は米国のCPI(消費者物価指数)が発表され、重要です。

今週、トランプ関税(相互関税)という悪い材料が出ましたが、言い方によっては悪材料が出尽くしたと言えなくもありません。そこで、今後期待される良い材料を2つ紹介します。

出所:内田氏

1つ目は米国の予算案です。予算案の成立期限は4月末です。ここでトランプ減税の延長や債務上限の引き上げが正式に決まれば、マーケットにとってはポジティブなニュースとなります。

もう一つがFRBの利下げ前倒しです。現在マーケットは4回の利下げを織り込んでいますが、利下げが前倒しになりますと一旦はドル安でしょう。ただ、その場合、株価の反発により、リスク回避の円買いとは逆のリスク選好の円売りが見込まれます。

特に、関税によってインフレが警戒される中での利下げは、インフレ期待の上昇を起こる可能性もあります。さらにトランプ減税が決まれば、財政拡張による悪い金利上昇も起こり得ます。FRBの利下げ前倒しは株安やドル安に歯止めをかける可能性があります。

但し、4月5日のパウエル議長の講演のポイントを確認しておくと、関税の影響によるインフレが警戒され、全体のトーンとしては引き続き利下げについて慎重に判断するというものでした。FRBの利下げについてはマーケットは現状、年4回の利下げを織り込んでいますが、パウエル議長の講演はそこまでのトーンではありませんでした。

来週は引き続き株安と円高に要注意ですが、一方で悪材料が出尽くしたという見方も出てくるかも知れません。1週間を通じて、ずるずると株が下がり、どんどん円高が進む状況にはならないと考えています。

 

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