円高のもう一つの背景
円高方向に動くきっかけになった可能性のあるものがもう一つあります。それが、1月30日に行われた氷見野日銀副総裁の「金利のある世界」というタイトルの講演です。
簡単に言うと「金利を上げていく」というテーマでした。一部講演の内容を抜粋すると「ショックやデフレ的な諸要因が解消された状態であれば実質金利がはっきりとマイナスの状態が続く、というのは普通の姿とはいえないのではないかと思います」といった発言をしています。
講演で使われた資料からグラフも抜粋してみました。
青い点線は名目金利、つまり表面上の長期金利を表しています。今は1.2%ほどです。そこからインフレ率を差し引いた実質金利※が赤の折れ線グラフです。深々とマイナス圏にあります。
※講演内での実質金利=長期金利から予想物価上昇率を引いたもの
つまり、氷見野副総裁の発言は「実質金利がマイナスであるのはおかしい、インフレ率と少なくとも同程度まで金利を上げねばマイナスは埋まらない。だから少しでも早く金利を上げていく」という話として市場に伝わりました。
ですから、この氷見野副総裁の講演によりドル高円安の方向に動きにくくなったとも市場では見られています。
もう一つ氷見野副総裁の講演資料からグラフを抜粋したいと思います。
「金利のある世界」への経団連会員企業の認識をまとめたものです。中小企業と必ずしも同じような認識であるとは言えませんが、金利のある世界、金利が上がっていく環境について16%が「ポジティブ」と、65%が「どちらかと言えばポジティブ」だと回答しています。つまり半分以上が金利の上昇に対してある程度準備ができていると答えたという調査結果になりました。
いずれにせよ、実行に移していけるかは別にして、日銀は「かなり金利を上げていきたい」という意向であることは認識しておいていただきたいと思います。