出所:内田氏

前回(第32回)、二つの重しが米ドルを圧迫している点をお話しました。今回も引き続き、そうした重しがドルを圧迫する可能性について解説します。

 

はじめに、5月に入ってからのドル円相場を振り返ります。米中間の暫定合意を受けてリスク選好となりました。ドル高円安が進み、ドル円は一時148円台後半まで上昇しました。しかし、その後、加藤財務大臣がベッセント財務長官と為替の協議をする見通しを示したことで米国が再びドル安に誘導するとの思惑や悪い金利上昇によるドル安が5月12日週(以下:先週)の後半頃から再燃しました。結局はそれが5月19日週(以下:今週)も続き、23日時点でドル円は143円を割り込んでいます。

 

財務省のホームページから日米財務相会談の結果を紹介します。「為替レートは市場において決定されるということを再確認した」とまとめられており、4月と概ね同じ内容です。

 

米国の財務省も「為替の水準については議論されなかった」、「ドル円はファンダメンタルズを反映している」、「為替レートは市場で決定される」内容を再確認しています。つまり、日米財務相会談は無風で通過したことになります。また、米大統領経済諮問委員会のミラン委員長も「為替の協議を密かに進めている事実はない」、「米国は強いドル政策を支持している」と発言しています。米国側はドル安誘導を否定しており、日米間で為替がテーマになることはないようです。

一方で気になる報道もありました。韓国の経済新聞が、「韓国と米国との貿易協議で為替の方向性が協議された」と報じたのです。その上、報道に対して韓国の財務省にあたる企画財政省も、「米国との関税協議は継続中でまだ何も決まっていない」とコメントを出し、協議の存在を認めた形です。この結果、日本とは交渉していないにせよ、相手国によっては米国が為替について協議しているとの疑念が市場では残ってしまう結果になりました。

 

この図は対米貿易黒字国の上位10カ国の通貨※が、バイデン政権下、ドルに対してどの程度下落したかをまとめたものです。韓国が2番目に通貨安になった国であると分かります。そして日本円は最も下落しています。すなわち「韓国と米国との間で為替の話が出ているのだとすれば、最終的には日本との間でも為替の話が何か出るのでは」との思惑が完全には消えない可能性があり、ドル円の上値を抑えると考えられます。また、仮に日米間でこのまま為替の話が出ない場合、それは高い関税が続く危険性を示唆します。7月上旬まで続く日米間の関税交渉は依然として予断を許しません。

※10位以内のドイツとアイルランドが同じユーロを使っているため、通貨数は9