出所:内田氏

今回のテーマは「ドルに2つの重し」です。まず、ドル円を振り返った後、米国が通貨安の是正を求める可能性があるターゲット候補、悪い金利上昇とドルの関係、来週(5月19日週)のポイントの順に進めていきます。

 

今週(5月12日週)は序盤に米中間の暫定合意がなされ、関税をお互いに115%ずつ引き下げることになりました。これを受け、マーケットが一気にリスク選好に傾斜するとドル円も148円台後半まで上昇しました。ただ、その後、少しずつ上値が重くなり、145円を割り込む場面も見られました。

今週は米国の消費者物価指数や生産者物価指数、さらに小売売上高も予想を下回ったことから、FRBによる利下げの織り込みが進み、ドル安が進んだとの報道もみられました。しかし、実際には年内の利下げ回数の織り込みが先週末(5月9日)の時点で2.6回だったのに対して、現在は約2.3回と、むしろ後退しています。このため、終盤にかけてドル安が進んだ理由は、米国が再びドル高の是正を持ち出す可能性への警戒と米国の悪い金利上昇が再びドルを下押しした可能性です。

 

利下げの織り込みが後退した点については、FRB当局者らの発言が挙げられます。今週の複数の高官ら発言は、まだ利下げを決めるには早いという5月のFOMC後のパウエル議長と同様のトーンで足並みが揃っていました。パウエル議長の「利下げを急がない」スタンスはFOMCのなかで共有されていたと考えられ、そのことで利下げの織り込みが後退したと思われます。

 

では一つ目のドルの重しについてみていきましょう。5月13日に加藤財務大臣から「G7では米国側と引き続き為替についての協議を進めることも追求していきたい」という発言が出ました。5月19日週に日米財務省会談をもう一度開催し、為替について協議する可能性が浮上したのです。

日米財務省会談は4月に一度行われ、為替レートは市場において決定されるとことで合意がなされたはずです。当時、読売新聞がベッセント財務長官が「ドル安円高が望ましい」と要求したと報じましたが、財務省の三村財務官も「米側から円高・ドル安を望む発言はなかった」と否定しており、マーケットも一旦、日米間で円安を是正する話題は通過したとみていました。ところが、足元では改めて為替に関する協議の可能性が出てきたのです。この為、市場では「読売新聞の報道は誤報ではなかったのではないか?」、「水面下ではある程度為替の協議を継続していく話になったのではないか?」との見方が強まり、ドル円の上値が重くなったと考えられます。

 

その上、今週はドル安韓国ウォン高が進む場面もあり、連れ安となったドル円が145円台まで反落する場面もみられました。5月5日週も台湾ドルや香港ドルが対ドルで急騰する場面が見られており、アジア通貨に対するドルの売り仕掛けとおぼしき動きが再び発生したという状況です。

これらを踏まえ、次に米国から見てどういった国が為替に関してターゲットになりやすいのかを見ていきます。