今期2度の自社株買い、発行済株式数の10%を取得 株主還元を強化する背景とは
最後に川崎汽船が株主還元を積極化した理由を解説します。
まずは今期(2025年3月期)の株主還元を押さえましょう。上述のとおり、川崎汽船は今期の1株あたり配当金を上方修正しました。期首時点で85円としていたところ、15円上乗せの100円へ引き上げています。前期比では17円の増配です。
さらに自社株買いは2度も実施しています。合わせて7500万株以上、自己株式を除く発行済株式数の10%以上を取得する計画です。うち1回目は公表からおよそ2カ月で取得枠の100%を実施しました。2度目の公表分も、2024年までに75%を取得しています(取得期間:2025年2月末まで)。
【川崎汽船の自社株買い(2025年3月期)】
・2024年5月公表分:3955.6万株(自己株式を除く発行済株式数の5.5%)
・2024年11月公表分:3600万株(同5.34%)
川崎汽船が株主還元に積極的な理由は、資本効率の改善に取り組んでいるためです。
先述のとおり、川崎汽船は利益が拡大しています。最終利益は利益剰余金として自己資本に積み上がります。同社の自己資本は2024年3月期で1兆5919億円と、2020年3月期(1010億円)から16倍に増加しました。
自己資本の拡大は、一般に健全性が向上したと評価できます。一方で、利益が同じなら資本効率は低下したと評価される懸念もあります。
例えば、川崎汽船は資本効率の目安としてROE(自己資本利益率)10%以上を目指す方針です。ROEは純利益を自己資本で除して算出します。つまり、分母の自己資本が16倍に増加したなら、分子の純利益も16倍に増加しなければROEは低下することとなります。
そこで、ROEを維持したいなら、自己資本を純利益に見合った額へ引き締める必要が出てきます。そして、自己資本は配当金の支払いや自社株買いで減少します。この効果を狙い、川崎汽船は株主還元を強化したとみられます。
川崎汽船は2027年3月期までの5カ年で株主還元に7300億円以上を振り向ける方針です。同時に利益も成長させ、資本効率の向上に取り組みます。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)