各販売会社が公開するデータをもとに、編集部独自の分析で投資信託の売れ筋を考察する連載。今回は、SBI証券のデータをもとに解説。
SBI証券の投信売れ筋(販売金額)ランキングの2025年10月最終週(10月27日~31日)のトップ2は前月と同様に「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(愛称:オルカン)、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」だった。第3位だった「iFreeNEXT FANG+インデックス」は第4位に後退し、第3位にはトップ10圏外から「eMAXIS NASDAQ100インデックス」が飛び込んだ。そして、第6位には前月は第8位だった「SBI 日本株4.3ブル」が上がり、トップ10圏外から「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」が第10位にランクインするなど、国内株ファンドへの評価が高まった。
信託報酬は割高でも…「NASDAQ」と「日経平均」の人気が上昇
SBI証券の売れ筋ランキングの第3位にランクインした「eMAXIS NASDAQ100インデックス」は、パフォーマンスの点では「S&P500」を上回る成績を残してきたインデックスであるにもかかわらず、投信市場での人気はいまひとつ盛り上がらなかった。それは、国内インデックスファンドの主流である「eMAXIS Slim」のラインナップから外れていたことが大きいだろう。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の純資産残高はすでに9兆円を大きく上回り、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(愛称:オルカン)も残高が8兆円を超える巨大ファンドになっている。シリーズを貫いている特徴は「業界最低水準の手数料」だ。「オルカン」の運用手数料(信託報酬)水準は年0.0525%(税抜き)以内という水準になっている。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」も年0.074%以内と年0.1%を下回る水準のファンドを主流にしている。
「eMAXIS NASDAQ100インデックス」は「eMAXIS Slim」シリーズではないため、業界最低水準の手数料率を追求しているわけではない。購入時手数料が無料で、さまざまなインデックスへの投資を可能にしている「eMAXIS」シリーズの1本だ。信託報酬率は年0.185%(税抜き)以内だ。「オルカン」と比較すると3.5倍の手数料率ということになる。「NASDAQ100」に連動するインデックスファンドでは純資産残高が4000億円を超えて最大の「ニッセイNASDAQ100インデックスファンド<購入・換金手数料なし>」が信託報酬率年0.185%であり、この水準と同等になっている。同じような米国株の代表的なインデックス「S&P500」と比較すると純資産残高で単独ファンド比較でも20倍の差がある。異常といえるほどに「S&P500」や「eMAXIS Slim」への資金集中が起きているのが現状だ。
しかし、現実のパフォーマンスでは「NASDAQ100」の方が「S&P500」よりも高いリターンを残している。たとえば、2023年12月末を起点として2024年1月以降、2025年10月末までの基準価額の騰落率をみると、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の+58.03%に対して「eMAXIS NASDAQ100インデックス」は+66.47%となっている。手数料控除後の成績で2年足らずの間で2ケタ近い差ができている。もっとも、リスク(標準偏差)は9月末時点で過去1年間が「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の17.86に対し、「eMAXIS NASDAQ100インデックス」は21.77とやや高い。投資対象は、同じように米国の大型株であるだけにパフォーマンスの差がそれほど大きく出るわけではないが、特に上昇相場において、ここ数年は「eMAXIS NASDAQ100インデックス」の優位が見て取れる。
一方、売れ筋トップ10の第10位にランクインした「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」もパフォーマンスで注目されるファンドだ。今年の4月9日から10月末までの騰落率では「iFreeNEXT FANG+インデックス」の+71.24%には届かなかったものの、「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」は+66.59%と「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の+45.92%や「eMAXIS NASDAQ100インデックス」の59.83%などを大きく上回った。この「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」の信託報酬率は年0.13%以下という水準で、「eMAXIS Slim」シリーズの中では、比較的手数料水準が高いファンドの1つになる。国内株インデックスは、2024年までは米国株インデックスに比べてパフォーマンスが見劣りしていたこともあるが、手数料水準でも割高とみなされて敬遠されてきた。
「eMAXIS NASDAQ100インデックス」や「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」などの人気が高まったのは、単純に手数料水準に着目し「(手数料は)安い方が良い」と選択してきた投資家の一部に、「パフォーマンスを評価しよう」という機運が高まってきた動きの表れだろうか。パフォーマンスはその時々の市場環境によって大きく変わってしまうため、中長期に優れたパフォーマンスを残すファンドを選ぶことは難しい。一目瞭然の手数料水準とはまったく異なる根気が必要な作業になる。
ただ、よりよいファンドを見つけ出せれば、「NASDAQ100」と「S&P500」の違いのような、あるいは、「FAMG+」と「オルカン」の違いのような圧倒的なパフォーマンスの違いも発見できる。SBI証券の売れ筋ランキングに見て取れる変化は、投資の初心者から一歩踏み出した投資家の動きといえるのかもしれない。


