改めて3人で話し合うことに

とはいえ、遺産分割においては事実上、相続人間で話し合いの余地がある。最新の遺言書では「自宅を美咲さんに」「預金を次郎さんに」と指定されているが、その後の財産の処分までは縛られない。確かに相続としての財産の帰属先は決まっているが、当事者間で話し合い、その後自分の財産として実質的に遺産を分け合うことは可能だ。

太郎さんは深く考え込んだ後、「父の意思を尊重しつつ、自分も納得できる方法を考えたい」と提案した。

私は3人が冷静に協議できる場を設定し、聞き役に徹しながらも話し合いの様子を書面にまとめていった。

その後の田中家は…

今回、田中一家の遺産相続については遺言書のとおりの内容となった。新しい遺言書が古い遺言書を撤回する意思を示していると認められ、法律的にも新しい遺言書が優先されたのだ。

しかし、話し合いの結果、相続とは関係なく、次郎さんと美咲さんから太郎さんへ現金が支払われる形で最終的には決着した。結局のところトラブルを解決する際には、遺言者の意思を尊重しつつ、家族間の話し合いを通じて柔軟に対応することが重要だろう。

遺言書は家族間の不安や争いを避けるために作成されるものだが、内容をアップデートする際は古いものをしっかり処分しなければ逆に混乱を招くこともある。今回の田中家はまさにそれだ。

田中家の場合はなんとか専門家の助けを借りながらであるが、冷静に解決に向けて話し合うことで、家族全員が納得できる結果にたどり着くことができた。

だが、現実には新旧それぞれの遺言を見比べて都合の悪い方が破棄されてしまったり、争いが法廷に持ち込まれたりなど、古い遺言が残っていたことで大変な事態が招かれることもある。

「自分たちが遺言書を作り直す時は、絶対に古い遺言は破棄するようにします」
3人は口をそろえて言う。

読者諸兄もどうか、遺言書を作り直す際は古い方の遺言書の取り扱いについて軽んじないでいただきたい。その軽率さが自身の大切な家族に無用な争いを生じさせてしまう可能性があるのだから。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。