入社半年で社内に流れ始めた不穏な噂
里佳の良くない噂が伝わってきたのは、それから半年ほどした後です。私の直属の上司に当たる30代の女性社員から「里佳、社内不倫してるらしいよ」と耳打ちされたのです。
その上司は社内きっての情報通で、女性社員が集まる休憩室の噂話を聞き付けてきたようでした。
「でも、相手が誰かは分からないんだよね。社長だって言う人もいれば、イベント企画部長だって言う人、営業部長だって言う人もいるみたいで……」
私にとっては“寝耳に水”で、にわかに信じがたい話でした。確かに里佳はモテ系女子だと思いますが、2人で世間話をしていても、男性や恋愛にそれほど関心がないように見えたからです。
ただ、おしゃれなのにいつも同じカルティエのネックレスをしていたので、彼氏はいるのだろうなと推測していました。
しかし、それから1週間も経たないうちに私は里佳の不倫の現場を目撃したのです。大学時代の友人たちと千葉市の繁華街に繰り出した際、里佳とイベント部長がラブホ街を手つなぎで歩いていたのでした。
その時の里佳は、普段私に見せるのとは全然違う、女を武器にする人の顔でした。
見てしまった後は困惑しました。うちの会社はパートさんやアルバイトの学生を入れても50人くらいの規模ですから、社内不倫はたちまちバレます。実際、私が入社2年目の年にも社内不倫が発覚した女性が、居場所がなくなり会社を去っていました。
“何でも屋”とはいえ、会社の中でも一番やりがいのある部署に引き抜いてもらったのですから、里佳には男性顔負けの活躍をして、女性社員の昇進の道を切り開いてもらいたいと思っていました。
そのためにも、メンターだった私は里佳にさりげなく注意したり、場合によっては相談にのったりした方がいいのか悩みました。とはいえ、社内で熱心に仕事に取り組んでいる里佳の姿を見ると、なかなか言い出せなかったのです。