<前編のあらすじ>

芽衣子(37歳)は、夫の実家の米農家を継ぐために、5歳の息子を連れて義実家住まいを始めることになった。

結婚して5年、東京で暮らしていた芽衣子たちは、義母の澄子が足腰を悪くしたことがきっかけで、仕事を辞めて実家の米農家を継ぐために引っ越してきたのだ。

芽衣子は、家事や農作業など、何かにつけて義母に目くじらを立てられ、しかられるようになる。帰ってみれば義母のけがは大したことがなく、けがが治ってからは農作業にいそしんでいた。

夫の正志に相談するが、引っ越す前は必ず芽衣子の味方になると言っていたはずの正志は仕方がないから我慢しろと言うばかり。仕事を辞めて転校を嫌がった息子を強引に連れてきている手前、別れるとも言えない。芽衣子は耐え忍ぶことを選んだ。

●前編:「お客さん気分でいられるのも今日までだからね」突然、米農家の嫁になってしまった30代女性の「人生の大誤算」

そして15年後…

田舎での暮らしは想像以上にハードだった。澄子は芽衣子をことあるごとにこき使い、少しでも自分のやり方から外れれば遠慮なく小言をぶつけてきた。

「本当に不出来な嫁だよ」

そんな人格否定のような言葉を投げつけられることだって、1度や2度ではなかった。

とはいえ、引っ越してから15年も時間がたてば、そういう理不尽さとも自分のなかで少しずつ折り合いをつけられるようになってくる。何より澄子のやり方というやつに慣れたのが大きいだろう。どこからか粗を見つけてきては小言をぶつけられる日々に変わりはなかったが、それでも心持ちが変化したおかげか、単に打たれ強くなっただけなのかはさておき、引っ越してきた当初よりもはるかに住みやすくなっていた。

あるいは、3年前に義父の泰司がガンで他界し、義母も本格的に足腰が悪くなって介護が必要になり、家業が本格的に正志へ継がれたことも大きかったのかもしれない。

今ではもう10年以上住まわされた離れは物置になっていて、息子は都内の大学で1人暮らしをし、芽衣子たち夫婦は母屋に移り住んでいる。