<前編のあらすじ>

みどり(32歳)は、結婚を機に義母の佐枝(61歳)と同居することになった。佐枝は毎日のように友達とランチに出掛け、洋服やアクセサリー、美容院などに散財をしていた。おまけにみどりにも、もう少し身なりに気を使ったほうがいいなどとおせっかいをしてきた。

夫に相談するが、「母さんは昔からそういうのが生きがいなんだ」と取り合ってくれず、義母は過去に苦労をしたと聞いたことから、自分が我慢をすればいいと自身に言い聞かせていた。

そんな折、みどりの仕事用のパソコンが壊れてしまい、新しいものを買うために夫婦の貯金の残額を確認すると、2人で将来のためにとためていた貯金が使い込まれていることが発覚する。

●前編:「もう若くないって自覚しないと」義母の浪費癖に我慢の限界! 義実家生活で発覚した「恐るべき事実」

消えた夫婦の貯金

貯金が大幅に減っていることに身に覚えはない。管理しているのはみどりだったが、通帳やカードを使えば祐也も、義母の佐枝もお金を下ろすことは不可能ではない。案の定、通帳や印鑑をしまっている戸棚の収納ボックスを確認すると、一緒に保管しておいたはずのカードがなくなっていた。

みどりはひとまずキッチンに向かい、シンクで水をくんだ。気持ちを落ち着かせなければいけなかった。だが、気持ちが落ち着けば2人に対する疑念がよりはっきりとした輪郭を帯びていく。仕事どころではなかった。一緒に暮らしている家族を疑いたくはなかったが、特に佐枝については日ごろの派手な浪費癖を知っている分、もしかしたらと思ってしまった。

心なしか張り詰めていた家のなかの空気は、勢いよく開いた玄関扉の音によって切り裂かれる。

「ちょっとみどりさーん、荷物運ぶの手伝って!」

何なの、という言葉をのみ込んで、玄関に向かう。帰ってきた佐枝は有名ブランドの大きなショッパーをいくつも下げていて、そういえば銀座に行くと言っていたことをみどりは思い出す。

「今日もいっぱい買いましたね……」

「そうなのよ。新作よ、新作。みどりさんに買ってきたものもあるから、ちょっとこれリビングに運んじゃって」

佐枝は履いていた靴を放り出してリビングへと向かう。みどりも受け取ったいくつかのショッパーを抱えながら後に続く。

「ありがとうございます。でもそんな、ブランド品なんて」

「何言ってんのよ。いい年なんだから、ブランドものの1つくらい身につけなきゃ。こういうのが似合う女にならなきゃ恥ずかしいでしょう?」

やはり佐枝の価値観に全く共感できない。だが今はそれ以上に気になっているのは、次々と広げられていく洋服の値段と、それを買うだけの金が一体どこから出たのかということだった。

「これ、すごくすてきですね。おいくらくらいなんですか?」

「ダメよ。それは私のだから、みどりさんはこっち。ほらやっぱり。こういう色が似あうと思ったのよ!」

買い物の興奮でアドレナリンが出ているせいか、あるいははぐらかしているのか、佐枝との会話は噛み合わない。みどりはだんだんと、これも素敵でしょあれも素敵でしょと買ってきた洋服を並べる佐枝にいら立ちを募らせて、自分では絶対に買わない鮮やかなオレンジ色のワンピースを握りしめた。

「あの、お義母(かあ)さん。こんな話はしたくないんですけど、ちょっと伺いたいことが……」

「何よ。辛気臭い顔して。今、帰ってきたばかりなんだからあとにしてよ」

みどりのけんのんな空気を感じ取ってか、佐枝は眉をひそめた。

「お茶でも入れてくれないかしら? 11月だっていうのに、荷物持って歩いたら暑くて」

「大事なことなんです」

みどりは深く息を吸い込んで、佐枝を見据えた。佐枝は観念したように一度買ってきた洋服を置き、みどりへと向き直った。

やっぱり、とみどりは思った。彼女は何か知っているに違いない。

「私と祐也、2人で将来のために貯金していた口座のカードがなくなってて。祐也さんが持ち出したのかもなとは思うんですけど、お義母(かあ)さん、何かご存じないですか?」

みどりがそう口にした瞬間、佐枝は目を見開いた。