お金は戻ってこないが…
この日を境に、みどりはすべてを諦めた。祐也に離婚届を突きつけ、義実家から出る準備を進めた。最初はなんとかならないかと駄々をこねていた祐也だったが、実家に戻ったみどりの決心が固いことを悟るや、佐枝といっしょになってケチだなんだと嫌みをぶつけてきた。
調停が終わり、無事に離婚できたのはまだ先週のこと。夫が義母に渡したお金は返ってこないし、慰謝料の支払いもない。憤りや後悔は大きかったが、それでも安堵のほうが強かった。
「それじゃあ行ってくるね」
母に声をかけ、みどりは家を出る。新しい生活を始めるための新しい部屋を探す足取りは、涼やかな秋の風と似て軽やかだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。