自分が我慢をすればいい

「そうは言ってもなぁ。母さん、昔からそういうのが生きがいなんだよ」

晩酌がてら祐也に相談はしてみるが、気乗りしないらしく返事は芳しくない。

「そうかもだけどさ、別に私たち、そんなに稼いでるってわけでもないし。ほら、お義母(かあ)さんが言うから結婚式もかなり派手にやったでしょ。だから少しは節約も考えたほうがいいんじゃないなかなって思うの」

「節約っていうけど、貯金だって今すぐどうこうなるわけじゃないんだろ? だったらひとまずいいんじゃないかな。一応、おやじの年金もあるんだし」

「まあ、そうなんだけど……」

「母さんには苦労かけたからさ、できるだけ楽に楽しく過ごしてほしいんだよ。な、頼むよ」

祐也たち親子の話は、みどりもそれとなく聞いている。銀行員だった祐也の父は、かなりお金にうるさい人だったらしく、佐枝の買い物ひとつをとってみてもかなり厳しく管理していたらしい。そのこだわりときたらもはや偏執的と言えるほどで、近隣のスーパーの食材の値段をそらんじることができるほどだったらしい。佐枝がうっかり割高なスーパーで食材を買ってこようものなら、義父は佐枝を厳しくしかった。時には暴力に及ぶこともあったそうで、祐也は母が受ける過剰な仕打ちを心苦しく思っていたそうだ。

きっとそのころの反動なのだろう。そんな背景を思うと、みどりはもうそれ以上何も言えなかった。

「分かったよ。しばらくは様子見る」

みどりがしぶしぶうなずいたのは、家族として佐枝と共有しているお金とは別に、夫婦2人で将来のためにためている貯金があることも大きかった。もちろん祐也は、佐枝がみどりに向ける嫌みや小言のことを知らないが、それはみどりが我慢すればいいだけの話だ。

テーブルの上には、週末にパチンコに行っていた祐也が持ち帰ってきた景品のお菓子が広げられている。みどりは雑に握った柿の種を口へ運んでぼりぼりとかみ砕き、缶チューハイを流し込む。1日の疲れと一緒に、胸の奥にある引っ掛かりも有耶無耶(うやむや)にしていく。

「ありがとう。みどりだけだよ、こんなに俺のこと理解してくれるのはさ。俺、みどりと結婚してほんとよかったわ」

結婚してまだ半年。たぶんよくある新婚ののろけなのかもしれない。だがみどりには祐也の言葉が、どこかしらじらしくも聞こえていた。