眠るように最期を迎えた父

2通目の手紙を受け取った後に初めて古賀さん宛てに返信を書き、父とは酷い経緯があって生き別れたこと、母が亡くなったこと、今はシングルマザーとして幼い息子を育てていることなどを伝えました。同時に、大変申し訳ないけれど、父と会うつもりはなく、相続も放棄したいと書きました。

しかし、その後も、古賀さんからの手紙は届き続けました。

昨年末には父が住んでいたアパートの大家さんから建物の老朽化を理由に立ち退きを要求されるというアクシデントもありましたが、古賀さんが東奔西走して、隣町で父が入居できる施設を見つけてくれました。

古賀さんの事業所の方々やアパートの仲間たちも総動員して引っ越しが行われました。ようやく施設での暮らしにも慣れたと思った5月には、呼吸困難から危篤状態になり、いよいよかという一幕もあったようです。

奇跡的に持ち直した父はその後しばらく病状も安定していました。しかし、9月に入って猛暑も少しは和らぐかと思った矢先、静かに息を引き取りました。直前の10日間ほどはほとんど意識もなく、眠るような最期だったといいます。

「松野さんにとってどんなお父様だったのかは知る由もありませんが、私にとっては、苦しい時にもユーモアを忘れず、粋で仲間思いの素敵な方でした。わずかな間でしたが、共に時間を過ごし、最期を見守らせていただいたことは大切な思い出です」

古賀さんからの報告の手紙を読んでいるうちに、不思議と涙がこぼれました。父のために流す涙などなかったはずなのに……。