ここでもう一度、アメリカの財政赤字の足取りを見てみたいと思います。

 

現在、GDP比の財政赤字残高は120%あります。昔を振り返ってみるとレーガン大統領が軍事支出を増やして「双子の赤字」と大騒ぎされたころでも、財政赤字残高は40%くらいでした。しかし今は、日本には及びませんが非常に高くなっている。

金融危機を経て強烈に上がった。続いてコロナ危機が起こりました。未曽有の二つの危機を経てアメリカのGDP比の財政赤字は100%を下回る気配は見られなくなりました。もう戻らなそうな雰囲気になっている。

ここからは直近の長期金利の動きを見ていきましょう。

 

FRBは9月18日に利下げをしました。まだまだ利下げをするとも発表したので、長期金利は本来は横ばいか、もう少し下がる動きを示すはず。上がっても、0.25%くらい。これがいままでの常識でした。しかし、今回の選挙は違うのです。

9月中旬まではハリスさんが優勢でしたが、最後の1カ月になりトランプさんが追い上げてきたという報道が目立つようになります。差は縮まってきている。場合によっては、世論調査では勝っているとも報道されるようになる。結果、先ほどの「責任ある連邦予算委員会」による試算のとおり、トランプ大統領になると債務残高が増えると考える人が増え、債券がおそらく売られている。その結果、どんどん金利が上がり、いよいよ選挙を迎えそうだ。そのような状況にあります。

ただ、議会の選挙があることを忘れてはなりません。仮にねじれることになれば、どうなるか。

トランプ候補が大統領になっても議会を民主党が抑えれば、すんなり予算が通り財政赤字7兆5000億ドル増とはいかない。そうなれば、金利は下がることになるでしょう。そしてドルは安くなる。

逆にトランプ大統領が勝ち、議会も共和党が勝つ。どんどん減税する。税収は関税などの形で外国から取る。そうなると、金利は上がるでしょう。ただ、為替が金利の通りに動くかは未知数です。

最後にハリスさんが勝った場合を考えてみましょう。ハリスさんと民主党が勝てば、財政赤字の増加は3兆5000億ドルほどで済みます。しかし、下馬評通りであれば、ハリスさんが勝っても議会を制するのは共和党になりそうです。つまり、すんなり予算は決まらない。そうなれば金利は下がる方向に動くでしょう。

財政赤字だけで金利が100ベーシスも200ベーシスも動くことはないでしょうが、財政赤字や財政支出、財政政策効果でざっと25~50ベーシスくらいは動くと考えられます。そうなれば足元の金利4.28%はもう一度、4%を切るくらいまで落ちる可能性はある。

改めて、選挙後の金利の動きを振り返ってみましょう。4パターンほどあります。

・ハリスが勝ち議会がねじれた場合は金利が下がる。
・ハリスが勝ち民主党が勝った場合は今よりも少し下がる。
・トランプが勝ち共和党も勝った場合は今よりもさらに金利が上がる。
・トランプが勝ち議会では共和党が負ければ金利は今の水準を維持する。

さて、この4つのパターンに合わせて我が国の問題を考えてみましょう。為替が動いてしまうことが問題です。だから皆さん来週は臨戦態勢でしょうね。為替が円安方向に動けば日本銀行は利上げを催促されてしまう。そうなれば株を動かされてしまいますから。

なんなんでしょう? この世の中は。現代の世の中はここまで複雑になってしまったのか。そう感じているところです。

先を読み戦略を立てられる投資家やヘッジファンドにいるような、すばしっこい人にとっては、おもしろい、これほど儲かるチャンスはない。そんな時代になっているかもしれません。

しかし、オーソドックスな投資、つまり中長期的な投資を考えている人にとってはちょっと迷惑な大統領選挙になっているなと思います。

ゆったりとした視点で投資を考えている人は日本銀行の動きを見てほしいですね。私は日本銀行は利上げにもっと時間をかけてよいと考えています。

植田総裁が記者会見で「いつでも利上げをする」という趣旨の発言をしました。ただ、これは為替マーケットに対するけん制だと私は思っています。

実のところ、インフレ基調は下がっているので、利上げを急ぐ必要はない、つまり、為替は日本経済、消費者に必要以上にネガティブなインパクトを与えていることを植田総裁は知っている。

中長期の投資家からすると、為替が円高に戻らないのであれば、外国に投資をするしかない。むしろそこにブーストをかけていくことになるでしょう。逆に行き過ぎた円安が修正される可能性もある。その場合はもう一度「よし日本株だな」という判断で日本株を買っていく戦略になるのではないかと思います。二つの大きな分かれ道です。

 

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公式チャンネルと11月2日 放送分はこちらから

岡崎良介氏 金融ストラテジスト

1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任