頑固で自分の考えを曲げない母親
家を出たのは、母に結婚を反対されたことがきっかけでした。当時の私は22歳の誕生日を迎えたばかり。東京の短大時代に知り合った前夫と結婚したいと切り出したら、母はいきなり怒り出したのです。
「お前みたいな田舎娘に、いいとこのお坊ちゃんの嫁なんて務まらない。どうせすぐ別れるに決まってる。田舎娘は田舎娘にふさわしい相手を見つけなさい」
いかにも母らしい一方的な物言いだと思いました。母は今風に言うならコミュ障気味で決して口数は多くないのですが、頑固で、こうと言ったら絶対に考えを変えません。
私が子どもの頃、保護者会や授業参観にやって来ても、母は他の友達のお母さんから離れたところにポツンと1人でいるのが常でした。母の親しい友人と言えばお隣さんの川口さんと、幼なじみの正枝さんくらい。クラスの友達の家に遊びに行くたび、手製のクッキーやプリンを振る舞ってくれて、私たちと一緒に学校や人気のアイドルの話に興じる社交的なお母さんがうらやましいと思っていました。
田舎者の母の目には、前夫は「都会のいいとこのお坊ちゃん」と映ったのでしょう。
合コンで知り合った前夫の両親は、都内で家具のチェーン店を経営していました。前夫は次男坊ですが、学生時代から外車を乗り回すような派手な生活をしていました。裕福な両親にかわいがられて育ったせいか、如才ない半面、気分屋で自己中心的で他人には冷淡。今思えばそんな人をよく好きになったものだと思いますが、外見がその頃推していたアイドルにちょっと似ていたのです。