突然のスカウト
あれから3年。隆はいまだに定職には就けず、転職活動を続けながら、合間の時間を使ってフードデリバリーサービスの配達員をやることでなんとか生活を続けている。
もの思いにふけっていた隆は、われに返って居酒屋に背を向け、駅へ向かって歩き出す。呼び止められたのはそのときだった。
「あ、清水さんじゃないか⁉ 久しぶりだな!」
「ああ、権堂さん。お久しぶりです……」
隆は目線をそらして頭を下げる。惨めな現状を見られた気がして、気恥ずかしい思いだった。
「あの店、辞めちゃってから、どうしてるか気になってたんだよ。 今は何をしてるんだ?」
「いやぁ、あの、それが実は、まだいろいろ仕事を探している最中でして……」
隆は苦笑いを浮かべる。それがとてつもなく卑屈な表情であることは、自分の顔なんて見なくても分かった。
「そうか、大変だな」
権堂の顔は見れなかった。きっと哀れみの視線が向けられている。自分が哀れなことなんて、隆自身が1番よく分かっていたから、これ以上は耐えられそうになかった。
「いえ、また、いつか、一緒にお話しできればいいですね。それじゃ、自分はこれで……」
「あ、ちょっと待ってくれ」
逃げるように立ち去ろうとした隆を、権堂が呼び止める。
「もし良ければなんだが、うちで仕事をしないか?」
「え……?」
権堂の口から放たれた突然の提案に、隆は固まった。
●権堂からの突然のスカウト、その魂胆は……? 後編【月給18万“暇すぎる仕事”の落とし穴…勤務中に内職をしていた50歳男性に社長がかけた「驚きの言葉」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。