<前編のあらすじ>

麻里子(54歳)は夫の信之(56歳)と、2人がまだ貧しく若い頃から、宝くじを夢を込めて習慣的に買っていた。

ある日、信之が1000万円の当選を果たし、2人は大喜びをするが、当選を義母に伝えた事により、親戚たちから金を無心する電話が来るようになってしまう。

それがきっかけで険悪なムードになり、当選金の使い道でも意見が分かれた。堅実に家のローンの早期返済やリフォームに使いたい麻里子と、車を新しく買い換えたり、海外旅行をしたい信之。麻里子は浮かれる信之に苛立ち、ついに夫婦げんかへと発展してしまう。

●前編:“金目当ての義家族たち”に追い回され…宝くじ高額当せん夫婦が陥った「まさかの事態」

当たらないほうが良かったんじゃない?

結局、話し合いは進んでいなかった。いや、話し合ったところでお互いの考えは平行線のままなのだから、話し合う意味なんてなかった。当然、いくら言葉を尽くして説得されようとも、麻里子の考えは変わらない。だから麻里子は老後を見越してのリフォームの準備を始めた。

2階の押し入れを開けて、そこから捨てるものと残すものを仕分けする。ほとんどが使わなくなった家電や開けなかった引き出物などだったから、大半は捨ててしまうことができそうだった。

「何やってるの?」

振り返ると、一美がこちらを見ていた。大学の最終年で、就職も決まっている一美は、友達と学生最後の年を楽しむため、しょっちゅう外出をしているので、昼間にこうして家にいることが珍しかった。

「要らない物をね、捨ててるのよ。ほら、宝くじのお金でリフォームするって言ったでしょ?」

「父さんは海外旅行に行くぞって雑誌を買い込んでたけど? 私もどこに行きたいか聞かれたよ」

「ああ、それはないから」

麻里子はまた一美に背中を向けて作業を続ける。

「それさ、お父さん、ちゃんとOKしてんの? かなり海外旅行、楽しみにしてたよ」

「いいのよ。そんな無駄なことに使ってられないもの」

麻里子はそれだけ言って、淡々と手を動かした。

「……あのさ、なんで宝くじ当たって、仲悪くなってるの? 意味分かんないんだけど」

「そんなの私に言わないでよ。そもそもあの人がお義母(かあ)さんに話したのが悪いんだから」

「でもさ、宝くじを当てたのはお父さんでしょ? お父さんの手柄は認めてあげたら?」

麻里子は手を止めて、後ろの一美を振り返る。

「認めてるけどさ、そんな海外旅行とか車とかそんなのにお金使うのもったいないでしょ? この先、何があるか分かんないんだから」

「何にお金を使うかは何でもいいのよ。けんかしてんのが意味分かんないって言ってるの。昔は宝くじの当選番号を楽しそうに見てたのにね。こんなんなら、当たんないほうが良かったんじゃない?」

一美はそれだけ言うと背を向けて、廊下を歩いて行く。

「ど、どこ行くの?」

「友達と遊びに行く。どうでもいいけど、離婚なんてしないでよね。周りの友達に離婚原因聞かれたときに、宝くじの当選金の使い道でもめたからなんて恥ずかしくて言えないから」

一美の言葉には親へのあきれが見て取れた。それでも自分は間違ってないと言い聞かせながら、ものをどんどん廃棄用の段ボールに入れていく。やがて押し入れの奥に行けば行くほど、懐かしいものが出てくるようになる。一冊のアルバムもそのなかの1つだ。