事業縮小によるリストラ

何とかしなければとは思った。しかし世の中の大きな流れにあらがうことはできず、3カ月の月日がたったころ、隆は店のオープン前に本社に呼ばれた。そこで本部社員から告げられたのは、事業縮小によるリストラ。隆はあっけなく仕事を失った。

店の営業中の記憶は曖昧だった。これからどうしていけばいいのか。そんなことばかりを考えているうちに時間は過ぎていった。

疲れているわけでもないのに身体を引きずるように家に帰った。分譲マンションの玄関扉の前で、隆は固まった。妻の冴子にどんな顔で、どう説明したらいいのだろうか。ローンだってまだ残っていた。

隆は数分のためらいのあと、意を決して扉を開けた。冴子に心配は掛けられないが、秘密を抱えておくなんてこともしたくなかった。

「おかえり」

いつもと変わらない様子で、冴子が隆を出迎える。その温かさが今は痛かった。

入念に手を荒い、マスクを洗面所のゴミ箱に捨ててリビングへ向かう。もう寝る準備を済ませている冴子は寝間着姿で、椅子に腰かけながら本を読んでいた。

「どうしたの。つぶれたカエルみたいな顔してるわよ」

「冴子。すまない――」

隆はリストラされたことを話した。話していると惨めな気分になった。泣きそうになるのはさすがに情けなさすぎると、歯を食いしばった。

最初は驚いていた冴子だったが、次第に怒りが湧いてきたようで「何それ、ひどいじゃない」と声を荒らげた。

「15年でしょ? ずーっとお店のために頑張ってきたのに、いきなりそんなリストラなんて」

「仕方ない部分もあるよ。コロナのせいでろくに営業できてなかったしな……。とにかく、転職がんばるよ」

「そうね……。きっとなんとかなるわよ。大丈夫」

冴子は明るく言ってくれたが、そう甘くはないことくらい隆も冴子も分かっている。

隆はもう40代後半。スキルと言えば、焼き鳥を素早くおいしく焼けることくらい。おまけにコロナ流行のおかげで先の見通しが立たない状況が続いている世の中だ。飲食業界に限らず、内定を取り消されたなんて話は少なくない。

「大丈夫。大丈夫よ」

言い聞かせるように繰り返される冴子の言葉が、隆の心に突き刺さっていた。