か細い鳴き声の正体

翌朝、妙子が散歩に出掛けたのは単なる習慣だった。秀樹がまだ元気だった頃、2人でよく近所にある自然公園を散歩していた。家にいて面と向かって話せないようなことも、並んで歩いていると話せたから、夫婦で散歩することが習慣になっていった。

とはいえ、秀樹が寝たきりになってからも妙子は1人で散歩を続けた。理由は特になかったが、今思えばいつかまた元気になった秀樹と散歩することを願っていたからなのかもしれない。しかし秀樹は一足先に旅立った。このまま緩やかに、何もない毎日だけがひたすらに続いていくのだろう。そのことにどんな意味があるのか、妙子には分からなかった。

みー、みー。

ぐるりと公園を1周し終え、今日の献立を考えながら帰ろうとしたとき、妙子の耳に弱弱しい鳴き声が聞こえた。

みー。

妙子はあたりを見回したが、声の正体は見つからない。普段ならば気にも留めずに歩き出していただろう。しかしどことなく寂しげで頼りない声音が気になって、妙子は耳を澄ませ、鳴き声のあるじを探した。

近くの茂みを順繰りにのぞいてみる。すると横たわっている三毛猫が見つかった。妙子に気づいた三毛猫は、だるそうに体を起こし移動しようとする。しかし前足をけがしているのか歩き方がおぼつかない。

 

「どうしたんだい、お前さん。痛そうだね」

放っておけなかった。妙子は茂みに入り、猫を抱きかかえた。軽く抵抗して身をねじった猫だったが、元気がないのかすぐに妙子の腕の中でおとなしくなった。

妙子は三毛猫を大事に抱きかかえ、家に連れて帰って手当てをしてやることにした。