家族のアルバムと父の日記
実家の2階はとても狭く、ひと部屋しかない。そこは両親の寝室になっていて、朱美は1階の和室で寝るようになってから、ほとんど2階に立ち寄らなくなっていた。
久しぶりに寝室を開けると、思わずくしゃみが出た。かつて両親が寝ていたであろう場所にはたくさんのものが置かれていて、その全てにほこりが積もっている。懐かしい思い出を押しつぶすように荷物が山積みになっていた。
5年前に父が病気になってから、2人とも私が使っていた1階の部屋で寝るようになった。どうやらそのときから2階の寝室は単なる物置として使われるようになっていたらしい。
なんとか足の踏み場を探して部屋のなかを進み、寝室の窓を開ける。
太陽の光が差し込んで、部屋のなかのほこりが粉雪みたいにきらめいた。とはいえ、景色は最悪で、部屋中には段ボールや紙で包装された引き出物らしきものなどが積み上げられている。
これらを全て処分するのは骨だったが、朱美は目の前のことからコツコツとやろうと思い、軽く手をたたいて気持ちを引き締めた。
まずはほこりを全て捨てようと、ほうきとちりとりを手に取った。掃除機で一気に吸い取りたかったが、そんなスペースはこの部屋のどこを探しても見つからなかった。
1時間くらいで掃き掃除と拭き掃除を終えた朱美は、次に不要なものを処分しようと段ボールの中身を端から確認していった。
すると、そのなかの1つに入っていたアルバムが見つかった。
「へぇ、懐かしい」
朱美はページをめくる。アルバムには若いときの両親と朱美の姿が写真に収められている。
庭に出したビニールプールで朱美と父が楽しそうに遊んでいる写真を見て、このあと静枝がカメラを水に落としてしまい、父が不機嫌になったのを思い出す。3人で草津温泉に行ったときの写真を見ると、この写真を撮る直前まで自分が迷子になっていたことを思い出す。あのときは確か、父が血相を変えて走って探しに来てくれた。
アルバムを一通り眺めた朱美は、これは捨てられないと段ボールに戻し、同じ段ボールから見慣れないノートを取り上げる。
「これってお父さんの日記だ……」
けい線にそってびっしりと書き込まれた文章と、きちょうめんに角ばった筆跡から、それが父のものだとすぐに分かった。パラパラとめくっていくと、1枚の写真が落ちた。色あせも少なく比較的新しそうな、庭に面した軒下の写真だった。
「何これ?」
そこで朱美は何かが写っているような気がして、目をこらす。手ぶれがひどいが、それがどうやら、ツバメの巣であることが分かった。
「……何でこんな写真を?」