圭太の夢

間もなく、退寮した圭太が家に戻ってきた。

おそらく春になって新年度になれば、スポーツ推薦の生徒が集められたクラスから一般生徒のクラスへと”編入”することになるだろう。宗次は、辞めた野球部を間近で見続けるのはつらいだろうと近所の公立校への編入なども勧めたが、圭太は家から片道2時間半かかる学校に通い続けたいと言った。

「父さん、俺、大学に行きたいんだ」

久しぶりに家族3人で囲んだ食卓で、圭太はぽつりとつぶやいた。

「実は昔から絵を描くのが好きでさ。高校に行ってからも休みの日とか空き時間は絵を描いていたんだ」

「そ、そうだったのか……」

食事する手が思わず止まった。宗次は圭太にそんな一面があることなんて何も知らなかった。

「うちの高校、実は美大の推薦枠があって、今から勉強してどんだけできるか分かんないけど、そっちに挑戦してみたいと思ってる」

決意を秘めた圭太のまなざしを、宗次は真っすぐに受け止める。受け止めなければならない。胸のあたりが熱いのは、単に頰張った炊き立ての白米が、熱かったからではなかった。

「ダメかな……?」

言葉が出ずに黙り込んでいたからか、圭太はこわばった表情で宗次の顔色を窺っていた。みやびも緊張した様子で、宗次を見つめた。

「ダメなわけないだろう。今度こそ、お前の夢をちゃんと応援させてくれ」

宗次の言葉に圭太の表情がほころぶ。宗次は熱くなる目元を隠すように、茶わんを抱えて白米をかき込んだ。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。