父の呪い

運転席に宗次が座り、圭太とみやびが後部座席に座った。宗次は熱くなりすぎないように、大きく息を吐き出し、口火を切る。

「辞めたのは、けがとかじゃないんだな」

「……ああ、違うよ」

「じゃあ、何でだ?」

「高校に入学したときから、もう何もかもレベルが違ったんだよ。俺はシニアでもそれなりにやれていたと思ったけど……高校では全く話にならなかった」

そんなことない、と口を出しそうになったが、宗次はぐっと堪え、話を聞く。

「シニアで俺たちが相手にならなかったやつらがベンチにいて、そいつらよりもうまいやつらがスタメンにそろってんのに夏の予選ではベスト8止まり。もう上には上が、っていうのが果てしなすぎてさ……」

「和田さんからお前の話は聞いていた。誰よりも練習では声を出して、誰よりも練習を頑張っていたってな。そういう努力っていうのはいつしか報われるものだ。お父さんだってそうだった」

「それは、みんなやってるよ。ベンチだろうがレギュラーだろうが全員ね。それでも甲子園は果てしないんだ。それで、プロってなるともう、わけが分からないよ……」

圭太は皮肉っぽく笑った。

「……そうか、そう、思ったんだな」

宗次は心にぽっかりと穴があいたような気持ちになる。

「それでもね、俺の同期のみんなは次こそは甲子園だって練習をしている。でも俺はもうそれにはついていけないと思ったんだ。だから退部をしたんだよ」

みやびは壊れないように優しく圭太の腕をさすった。

「言ってくれれば良かったのに……」

「……ごめん。お父さんがプロ野球選手になれなかった悔しさを晴らしてやろうって思ってたんだ。お父さんも期待してくれてたのに、それを裏切ることになるから、言い出せなくて」

圭太の言葉に宗次はハッとする。

「……気付いていたのか」

宗次は圭太がプロ野球選手になりたいと言ったとき、自分のかなえられなかった夢を圭太にかなえてもらおうと思った。

そのために、惜しみなく全てを差し出していた。

しかし圭太はその思いに気付き、そして、重圧に感じていたのだ。

「バカね。そんなこと気にしなくていいのに」

宗次はうつむいた。

圭太の顔を見られなかった。応接室で自分は多くの時間を棒に振ったことに怒っていた。思いを踏みにじられたと感じ、激怒した。

しかし、実際は違った。

宗次のせいで、圭太は多くの時間を棒に振っていた。無理やり野球をしてくれていたのだ。限界を感じながらも、ずっと宗次のために続けてくれていた。

「圭太、ごめんな」

顔を上げられず、そのまま宗次は謝った。

「父さんは何も悪くないよ……」

圭太の気遣いがとても痛かった。