積立投資が呼び込んだ悲劇

新NISAのスタートを待つまでもなく、2023年6月から2人の積立投資は始まった。沙織は、小山と2人分の弁当を毎朝作るようになった。昼食を外食にするよりも、2人で1日1000円以上の昼食代が浮く計算だった。極力外食は避け、休日はサブスクリプション契約で映画やドラマを見て過ごすようにした。そうすると、沙織は毎月5万円を投資に回しても、1万円を超える余裕資金ができることがわかった。また、沙織は、小山と一緒に暮らしてみて、小山の暮らしぶりやさまざまなクセや生活のルールなどについて、事前に思っていたほどには違和感を覚えないことに安堵した。小山と同棲することになったと友人に話した時に、一緒に暮らすと嫌な面や受け入れない部分が見えるから、結婚するまで一緒に暮らさない方がいいということを言われていたが、その心配は杞憂(きゆう)だったことがわかった。

ただ、積立投資を始めて半年が経過し、いよいよ、新年から新NISAが始まる直前のクリスマスに、沙織の気持ちがプツンと音を立てて切れた。「なぜ、クリスマスにコンビニで買ったケーキを前に、自宅で缶ビールで乾杯なの?」――沙織は、「なぜ?」という言葉が口をついて出た途端に、涙がとめどなく流れ始めた。「節約ばかりで、投資を始めてから毎日が全然楽しくない!」。沙織の言葉に、小山は返す言葉もなかった。小山としては、積立投資を始めて半年とはいえ、すでに2人の口座を合わせると元本は60万円になり、投資評価額は62万円を超えていた。わずか6カ月で2万円以上の収益になったのだ。その結果を確認して将来に希望が見えてきたと喜んでいたところだった。その矢先に、沙織が泣き出してしまったことに、どうしていいのか皆目見当もつかなかったのだった。

●新NISAのスタート前に暗雲が立ちこめてしまった2人の積立投資。沙織と小山は納得のいく答えを出せるのだろうか……? 後編【30代からの投資で将来の富裕層を目指したパワーカップルの「息ぐるしさ」の正体とは…】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。