22年間、全否定されていた

押し入れの奥にこっそりと準備していた荷物を取り出す。寝室に来た吉道が成美の様子を見て驚く。

「ほ、本気じゃないよな? ちょっとしたけんかだろ、これは?」

「いいえ、私は本気よ。出て行くから」

吉道はうろたえながらも、成美を止める。

「かんしゃく起こすなよ、こんなことでさ」

「あなたにとってはかんしゃくに見えてるんだ。何度も私はあなたに助けを頼んでいたのに、何もなかったことになっているのね」

「と、とにかく落ち着こう。もしかしたら、母さんが謝るかもしれないからさ。取りあえず下に戻ろう、な?」

「いいえ、戻りません。そこの棚に離婚届が入っているわ。私のサインはしてあるから、後で出しておいて」

成美が棚を指し示すと、吉道は手で顔を押さえる。

「なあ、冗談は止めてくれよ。離婚なんて、俺は、俺は、絶対に嫌だからな……」

「泣くんなら、ママになぐさめてもらえば? あと、慰謝料も請求するけどその辺は弁護士とのやり取りになるから、そのつもりでね」

「慰謝料……? ちょっと待ってくれよ……」

「さっきのボイスレコーダー聞いた? 離婚の原因はあんたの母親の執念深いイビリ。そしてあんたがそれを庇(かば)ってくれなかったこと。これって立派な離婚原因になるから」

成美はそのまま寝室を出ようとする。しかしそれを吉道は体で防ぐ。

「り、里香になんて説明するつもりなんだ? こんなことで離婚したらアイツはきっと、悲しむぞ」

成美は吉道を直視する。

「あなたも22年間、やることなすこと全否定されてみたら? それでもこんなことだって言えたら、大したもんだわ。私は無理。ちなみに里香は大賛成してくれている。この家に帰ってこなくて良くなったって喜んでいたわ」

里香の言葉はかなり堪えたようで、吉道は何も言葉が出ずうつむいていた。