<前編のあらすじ>
成美(44歳)は憂うつだった。娘の里香が大学を卒業し家を出てしまったからだ。義母の留子(67歳)は何かにつけて成美に嫌みを言い、夫の吉道(45歳)もまた義母の言いなりだった。そんなある日、学生時代の友人から仕事の誘いを受ける。やりたいと思った成美だったが、「まともな家事もできずに、何が仕事だ」と留子に一蹴されてしまう。「義母に合わせてくれ」という夫に、何かを決意した成美だった……。
●前編:「みそ汁が薄い」イヤミな義母と“言いなり夫”にもう限界…孤立無援な妻が「ひそかに家でやってたこと」
専業主婦の逆襲
それからも相変わらず、留子のイビリは続いていた。成美はそれに対して何も反論せず、ただ毎日を粛々と過ごしている。その日も今までのように同じことの繰り返しになる、留子はきっとそう思っていたことだろう。
夕食時、留子は出された野菜炒めを食べて、顔をしかめた。
「ねえ、なによこれ⁉ 辛くて食べれないわ! あんた、私の事を病気にでもしたいつもり⁉」
「またですか? この間は薄い、でしたけどね」
「こんなの食べたら、体がどうにかなっちゃうわ! ちょっと警察に通報しようかしら?」
「お好きにどうぞ。私は一般的な味付けをしているだけですから」
「吉道はどう? 濃いわよね?」
「ああ、ちょっと濃すぎるな。これじゃ母さんの口に合わないよ」
まるで下手くそな劇団だ。同じセリフを何度も言って飽きないのだろうか。
「あんたね、いい加減にしなさいよ! こんな食事を長年食べさせられているこっちの身にもなって!」
そこで成美はポケットからボイスレコーダーを取り出す。
「同じ文言を22年も言われ続けているこっちの気持ちも考えてください!」
成美はレコーダーを再生する。そこには留子のイビリ発言の数々が録音されていた。
【何これ、味が薄い! 水を飲んでるのと一緒よ!】
【何これ、味が濃いわ~。こんなの食べ続けたら死んじゃうわ!】
【何これ、味が薄いわね~。水を飲んでるみたいだわ!】
【何これ、味が濃すぎる! 私を病人にでもさせたいの!】
新しい音声が再生される度に、留子の怒りが沸騰していく。
「な、なによこれ⁉ あんた、そんなことしていたの⁉」
「そうですよ。お義母(かあ)さんって語彙(ごい)力が全然ないのか、イビリが常に一辺倒なんですよ。言ってて恥ずかしくないんですか⁉ 味が濃いか薄いかを繰り返しているだけ。他に何か悪いところ見つからなかったんですか⁉」
「あ、あんたねぇ!」
「実はお義母(かあ)さんを試したことがあったんですよ。濃いって言われたとき、私、その翌日にさらに濃い料理を作ってみたんです。そのとき、お義母(かあ)さん、何て言ったと思います?」
成美はレコーダーの再生ボタンを押す。
【何これ、薄すぎるわよ! 調味料の存在を知らないのかしら⁉】
成美は停止ボタンを押して、留子を見る。
「お義母(かあ)さん、舌が正常に機能されていないようですので、一度病院に行かれてみてはどうですか?」
成美の言葉に留子は顔を赤くして怒る。
「あんた、こんな失礼な事をするなんて、 本当に、性格の悪い子ね~!! どうしてこんなのが嫁に来ちゃったのかしら~? ハズレだったわよね、吉道? そう思うわよね?」
聞かれた吉道は困ったように視線をさまよわせ、わずかにアゴを引いてうなずく。その瞬間を成美は見逃さなかった。
「じゃあ離婚ですね。そうしましょうよ」
成美の言葉に留子は驚く。
「は、はぁ⁉ 離婚⁉ あんた、こんなことで離婚なんて本当に根性がないわね~。どんな親に育てられたのかしら~」
「ちゃんとした親ですから、ご安心を。それよりも、こんなどうしようもないマザコンを育て上げるようなあなたこそ、母親として終わってると思いますよ」
「ま、マザコン……?」
「知りませんでした? 何でもかんでもお母さんの言いなりになる男のことを世間ではマザコンって言うんです。勉強になりましたね」
「あんた、吉道のことをバカにしているの⁉」
「そうですよ! でもあなたのことはもっとバカにしてますから! 私に息子を取られたと思っているのか何なのか知りませんけど、全く意味のないイビリをするだけで生産性のない人生を送っているあなたのことをね!」
成美はそのままリビングを飛び出して寝室に向かった。