娘を悪く言うのは許せない
家に帰ると、不機嫌な留子がリビングでテレビを見ていた。行き場がないので取りあえず成美もそこに座る。
「……里香は連絡してくるのかい?」
「ええ。始めたばかりだから大変って愚痴ってましたよ」
留子は鼻を鳴らす。
「まだ働き出して、少ししかたってないのに。そんなんで続くのかね」
「大丈夫ですよ。あの子、根性はあるんで」
「女のくせに仕事をするなんて。私はそんな風に育ててほしくはなかったよ」
普段なら聞き流す。だが里香を悪く言われると我慢ができない。
「じゃあお義母(かあ)さんは私みたいに専業主婦になってほしかったんですね?」
「あんたみたいに? ふざけんじゃないよ。吉道の稼ぎに寄生しているだけじゃないか。ちょっとは金を稼いでみたらどうだ?」
「じゃあ、私も働きますね。良い仕事が見つかりそうなんです。それで給料を家に入れれば、喜んでくれますか?」
留子は成美をにらみ付ける。
「なめんじゃない。まともな家事もできずに、何が仕事だ。あんたはまずいっぱしの家事を身につけるところからやらないとダメなんだよ」
留子は2人いるんじゃないかと思いたくなるほど、ころころと言い分を変える。分かっている。この人に何の信念もない。ただ息子を奪った成美を否定したいだけなのだ。
その日の夜、吉道から働きたいって聞いたけどと話しかけられた。留子から何か聞いたのだろう。成美はわざとらしく肩をすくめてみる。
「でもまずはちゃんと家事をやれってさ」
「まあ、母さんの言うことも、一理はあるだろ。それに合わせてくれてればいいから」
思わずため息を吐きたくなる。これも22年間変わらなかった。そしてこれかも変わることはないのだろう。
「じゃあ私の意見はもう一生、聞いてくれないってことね」
「と、とにかくさ、仲良くやってくれよ。俺だって忙しいんだからさ」
そう言うと吉道はベッドに入ってしまった。
吉道が何かをしてくれたことなんて一度もなかった。それはもう変わらない。だったら、自分でやるしかない。
成美は寝ている吉道に鋭い視線を向けた。
●次々と暴言を吐く義母に言いなりな夫……。我慢の限界に達した成美の考えている「行動」とは? 後編【「22年間、全否定されていた…」義母とマザコン夫から逃れるための「間違いない方法」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。