薄味のレシピ

それから半年後、歩はデザイナーズマンションからボロボロの古いアパートへ引っ越した。

再就職をしようと思ったのだが、高血圧からくる片頭痛に悩まされることになり、まともに働くことができなくなってしまった。そして今は残り少ない貯金を切り崩し、生活保護の申請が通ることを願いながら生活をしている。

亜里沙とはあれからすぐに連絡が取れなくなった。歩とは当然ながら“お金だけの関係”だったということだ。

夕飯時、歩は目の前のパスタを口に運ぶ。お金がなくなり、外食もできないので、最近は自炊をしている。

玲子のクリームパスタをまねて作ったのだ。しかし口に入ってくるのはただ冷めた薄い味のみ。

玲子にレシピを聞こうかと考えた。しかしそれは不可能だと悟る。玲子は家を出てからすぐに番号を変えていた。

この先、玲子と話す機会はもう訪れない。謝罪も感謝もたわいない話も何もかも伝えることはできないのだ。

歩は味のしないパスタを食べながら、ただただ涙を流した。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。