自業自得が呼んだ破滅
そして翌朝、ソファで寝ていた歩が目を覚ますと、玲子たちの姿はどこになかった。まるで初めから誰もいなかったと錯覚するほどきれいに整えられたベッドを見て、頭がうずくように痛くなった。
その後、歩は玲子と一言も話すことなく離婚が成立。多額の養育費と慰謝料を請求されることとなった。
そして一人暮らしを始めて、しばらくたったある日、乱暴なチャイムで目を覚ました。
フラフラとした足取りでドアを開けると、そこにいたのは笹原だった。笹原は怒りと悲しみが合わさったような目で俺を見ていた。
歩は笹原を部屋の中に招き入れる。
「ごめんな、散らかってて」
玲子がいなくなり、生活は荒(すさ)んだ。そんな様子を笹原に見られる気恥ずかしささえ感じなくなっていた。
「なんか、飲むか?」
歩がそう尋ねると、笹原は首を横に振る。
「いや、いい。手短に済ませるから」
そう言った笹原の前に歩は座る。
「どうした?」
「広田、お前は社長から解任されることになった」
「え……」
「もうずっとまともに会社に来てないだろ。それで他の社員からも不満が出ていたんだ」
うちの会社の株は歩と笹原で半々にしていた。つまり笹原の権限で歩を代表取締役から解任させることができるのだ。しかし歩は笹原がそんなことするわけないと高をくくっていた。
「そ、そんな……! 待ってくれ、俺は今、会社を追われたら、生活ができなくなる!」
歩は笹原に訴えかける。
「玲子への慰謝料とか、バカ高い養育費だけでも生活はかなりキツくて……!」
「お前が女にうつつを抜かしているのは知っていた。だけどな、仕事をおろそかにするのは違う。俺たちの会社には社員がいて、彼らを支えないといけないんだぞ? 自分の立場をわきまえろよ」
笹原に言われ、歩は何も言えなかった。
こうして歩は社長という地位も失い、会社からも追い出された。