ジムで交流を深めた河合陽太
自然と、朝は智也が寝ている間に出社し、夜も終電ギリギリまで仕事をして、帰宅後智也の姿を見かけたら即、マンション内にある24時間オープンのトレーニングジムに“避難”するのが日課になった。
そのジムで顔見知りになったのが、27階の住人で広告代理店に勤務する河合陽太だ。童顔で人懐こい陽太は典型的な弟キャラ。広告マンらしく話題も豊富で、話していて楽しい。
他に誰も来ない深夜のジムでひと汗かいた後、スポーツドリンクを飲みながら陽太と語らう時間が不毛な毎日の唯一の癒やしになっていた。
陽太には、自分は独身で、製薬会社で研究をしている2番目の姉と一緒に住んでいると話していた。陽太が私に好意を寄せているのは明らかで、私自身も決して悪い気はしなかったからだ。
忙しない日常
その日は朝からトラブル続きだった。勤務先の大口の顧客に不祥事が発覚し、担当のコンサルタントと共に初動対応に追われた。そうした中で別の顧客に出した中計の提案書にミスが見つかり、修正を一任された。
提案書を作成した同期は休暇中でサポートした私にお鉢が回ってきたのだが、サポートといっても決算書などの資料を集めたくらいだったので、かなりの無茶ぶりだ。
ようやく作業を終えた時には、最寄り駅からの終電が出た後だった。自宅までの深夜タクシーの代金は5000円ほど。経費精算はできるが、給料日前だけに立て替えは痛い。やむなくQRコード決済が可能なタクシーを呼ぶことにした。
タクシーの中で爆睡してしまい、気が付くとマンションの前に着いていた。帰宅したらすぐにでもベッドに倒れ込みたいところだが、こういう日に限って智也が起きている。