お通夜みたい。

田中麻紀はわが家の食卓を見てそう思った。

夫の憲史は眉間に皺(しわ)を寄せながらカレーを食べ、息子の昭人はうつむきっぱなしでスプーンを手に取ろうともしない。

本当はレストランを予約して、3人で食べる予定だった。

しかし息子が志望していた中学の受験に失敗。それによって憲史が激怒。そのまま予約はキャンセルして、家で食事をすることとなったのだ。

麻紀は昭人を気遣うような言葉を探していたが、その一言で憲史がまたかんしゃくを起こすのではないかと思っていた。

だから、麻紀ができることはこのまま無言でレトルトカレーを食べ続けることだけだった。

笑わなくなった息子

不合格になってから数日がたつ。あの日以来、昭人が家で笑うことはなくなった。

その理由は明白。憲史のせいだ。

家族がそろう夕食時、憲史の口から出てくるのは息子をなじる言葉だった。

「中学受験に失敗したってことはお前の人生は限りなく崖っぷちに追い込まれたということだ」

そんなことを平気で言う憲史に麻紀は言い返す。

「ちょっとあなた、まだ昭人は小学生なんだから……」

「関係ない! もっとスゴいヤツは小学校から受験をして、良い学校に行ってるんだ! それに追いつけるチャンスをお前はみすみす逃したんだぞ! 」

憲史の言葉を昭人はうつむいたまま聞いている。

何も反論しようとはしない。いやできないのか。

こんな毎日を送っていれば、昭人が笑わなくなるのは当然だ。麻紀は昭人のことをおもんぱかったが、どうしてあげればいいのかが分からない。

そんな歯がゆい日々を過ごす。