名門私立高校に進学した兄が引きこもりになるまで

推薦で名門私立高校に進学した兄は授業についていけず、1年もたたないうちに退学。ぐれてしまって転校先を最低出席日数ぎりぎりで卒業した後、4浪して今で言うFランク大学に滑り込み、卒業後は地元の名士だった父のコネで建設会社に就職しました。

ろくに仕事もできないのにプライドだけは異常に高い兄は勤務先でも周囲から浮きまくり、挙げ句の果ては顧客とトラブルを起こして半年後には会社に行かなくなりました。そしてあろうことか心まで病んで、自室に引きこもるようになったのです。

そんな兄を必死に支えてきたのが母でした。母は昔から兄に甘く、兄がやりたいということは何でもやらせ、兄が欲しいと言ったものは全て買い与えてきました。

一方、口下手で不器用な私のことが気に入らないらしく、ささいなことで文句ばかり言います。あまりの兄妹格差に見かねた父が注意をすると、「あなた何言ってるの? 達郎はわが家の希望の星なのよ」と開き直る始末。

兄がひきこもりになった後も、食事や小遣いを与えるなどかいがいしく世話を焼き、高名な精神科医の元に相談に行くなど、兄に尽くしてきたのです。

私が両親の反対を振り切って東京の短大に進学し、就職2年目に職場の先輩だった夫と結婚したのは、そんな実家から距離を置きたい気持ちが強かったからです。

実際、結婚後は年に1度夫や子供たちと帰省する程度で、日常的に実家との交流はほとんどありませんでした。4年前に父が病死した後は、コロナ禍もあり、その帰省すらしなくなっていました。

ですから、半年前、兄から突然電話がかかってきた時は驚きました。