このマンションに越してくる前、国立市の家にはオスのラブラドールレトリバーがいた。劉成の幼稚園の友達にブリーダーの息子さんがいて、年中遊びに行っていた劉成が「うちも犬がほしい」と言い出して聞かず、飼うことにしたのだ。

「できる限り自分でお世話をするから」と言うので、小学校に上がったタイミングで生後2カ月の子犬を譲り受けた。「フレディ」という名前も劉成がつけた。

家に来た頃は成猫ほどの大きさだったフレディは1年ほどでみるみる大きくなった。劉成が2年生になる頃には、劉成だけではフレディを制御できなくなっていた。

それでも、一人っ子の劉成にとってフレディは兄弟であり、一番身近な親友だった。

小学校の低学年の頃は、劉成の姿が見えず探し回るとフレディの小屋の中で一緒に寝ていたことが何度もあった。しかし、5年生から中学受験の塾通いが始まると、劉成がフレディと過ごす時間は半減した。中学からはサッカー部に入ったため朝練や夕練で時間が取れず、フレディの散歩は私の役目となった。

 

数学の教師だった主人に似たのか、劉成は成績優秀だった。進学した私立中学でも成績は常にトップクラスをキープしていて、担任の先生からは都心の有名私立高校受験を勧められた。「劉成君なら将来東大も狙えます」と言われれば、親としては悪い気はしない。

もっとも、劉成自身はまだまだ子供で、どんな職業に就きたいといった具体的な将来像を描いているわけではなさそうだった。

フレディの8歳の誕生日を祝った直後、劉成は第一志望の有名私立高校に入学した。都心にある高校までは、自宅から片道2時間近くかかる。高校でもサッカー部員となったので、7時の朝練開始に合わせて毎朝5時過ぎには家を出る必要があった。塾を終えると帰宅は22時過ぎだ。