企業が事業のために資金を調達し、運用するファイナンス。その考え方はビジネスパーソンにとって必須項目なだけではなく、投資にも役立つものです。しかし、ファイナンスについて学びたい……という決意に立ちはだかるのが、難しい数式や計算です。
そんなビジネスパーソンに寄り添うのが、経営者や企業家、コンサル、投資家など最前線のプロたちの意思決定を支えてきたファイナンス理論を石野雄一氏がわかりやすく解説する、話題の書籍『増補改訂版 道具としてのファイナンス』。今回は本書冒頭の序章「ファイナンスの武者修行」、第1章「投資に関する理論」の一部を特別に公開します。(全3回)
●第1回:食品なら10円差も敏感なのに…金融商品だと「思考停止」に陥る日本人が多いワケ
※本稿は、石野雄一著『増補改訂版 道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
「お金の時間価値」とは?
ファイナンスで最も大切な考え方の1つである「お金の時間価値」について知っておく必要があります。今回からは、まず「将来価値」と「現在価値」という2つの基本的な概念を説明し、いくつかの投資判断ルールを見ていきます。
明日の100万円より、今日の100万円
ほとんどすべての財務上の意思決定には、お金が絡んできます。そして、「お金の価値は、そのお金をいつ受け取るかで変わる」という考え方は、ファイナンスの中でも最も重要な考え方といえます。この考え方は、これからいろいろなところで、形を変えて出てきます。
そうはいっても、そんなに難しく考える必要はありません。簡単にいえば、明日の100万円よりも今日の100万円のほうが、価値があるというシンプルなことです。いま、目の前にある100万円と遠い将来の100万円では、価値が違うことは直感的に理解できると思います。
もし500年後に1億円もらえるとしても、いまを生きる私たちにとっては、1億円もの価値はありません。むしろ「いますぐ、100万円もらったほうがいい!」という人のほうが多いかもしれません。
このように、現在の私たちにとってのお金の価値は、受け取るタイミングが将来になればなるほど小さくなっていきます。つまり、お金の価値は手に入れるタイミングで変わるのです。いまの100万円は、たとえば国債で運用すれば、時間の経過とともに利息を生みます。これを「お金の時間価値」といいます。
この考え方はファイナンスの中でも、最も重要な考え方といえます。お金の時間価値を理解することは、企業価値の最大化にとっても非常に大切なことです。設備投資を判断したり、買収先の企業価値を評価したりするような事業活動は、それこそ、現在のお金の価値と将来のお金の価値を比較することになるからです。
ですから、あなたは、まず今日のお金と将来のお金を比較する方法を知らなければなりません。今回からは、お金の時間価値について、その基本的な考え方を学びます。特に重要なのが、将来の価値を現在の価値に置き換えるための割り引くという考え方です(第3回で説明します)。
将来、受け取るお金が現在の価値に換算していくらになるかがわかれば、株価や不動産ばかりか、企業価値を評価できるようになります。また、一定額のキャッシュが入ってくるような年金の評価に限らず、受け取るキャッシュフローの額が年により変化する場合の評価もできるようになります。