企業が事業のために資金を調達し、運用するファイナンス。その考え方はビジネスパーソンにとって必須項目なだけではなく、投資にも役立つものです。しかし、ファイナンスについて学びたい……という決意に立ちはだかるのが、難しい数式や計算です。

そんなビジネスパーソンに寄り添うのが、経営者や企業家、コンサル、投資家など最前線のプロたちの意思決定を支えてきたファイナンス理論を石野雄一氏がわかりやすく解説する、話題の書籍『増補改訂版 道具としてのファイナンス』。今回は本書冒頭の序章「ファイナンスの武者修行」、第1章「投資に関する理論」の一部を特別に公開します。(全3回)

※本稿は、石野雄一著『増補改訂版 道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

ファイナンス理論は「ビジネスの共通語」

重要なことを先に言っておきましょう。

「ファイナンス理論を学んでも儲かりません」

したがって、儲けようと思っている人がこの本を買うと後悔することになるでしょう。

「ファイナンス理論を学んでも、財務的な問題がすべて解決するわけではありません」

実際のビジネスの現場では、すべての意思決定がファイナンス理論に基づいているかというと、決してそんなことはありません。しかし、ファイナンス理論はビジネスを行なううえでの世界の共通言語です。

ファイナンスに限らず、すべてのことには基本があります。この基本を知ったうえであえて、その基本からはずれた意思決定を行なうのと、まったく知らないで意思決定を行なうのとでは雲泥の差があるでしょう。

ここで1つ、クイズです。あなたは、友人から「5年後に確実に100万円が当たる宝くじがあるんだけど、いま、それを買ってくれないか」と言われました。さて、あなたはいったい、いくらで買えばいいのでしょうか?

もし「100万円で買ってあげるよ」と言ったら、ビジネスの世界では確実にカモにされるでしょう(クイズの答えは第3回参照)。

エコノミストの吉本佳生氏は、著書 ※1の中で、「金融機関は、風俗業界と同じような商売のやり方をしていると思っておけば、おおむね正しいイメージでつきあうことができる」としています。どちらも、「欲望が判断を狂わせる」という点をうまく突いて、「ぼったくり商品」を売っているケースも多いということです。
※1 『金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか』(光文社新書)

スーパーの特売のチラシをそれこそ目を皿のようにして眺め、10円、20円の差に敏感な日本の消費者が、なぜか金融商品の前では、まったくの思考停止に陥ってしまいます。これは、本来の商品価値を判断する知識がないからです。