誰のために多くの品ぞろえをするのか?

では、誰のためにこんなに多い商品数になってしまっているのでしょうか。iDeCoに早くから加入した人たちは、資産運用へのアンテナが高い、投資や投資信託の経験者でした。彼らはこれまでの経験と情報収集の積み重ねによって“推し”の投資信託があります。ですから、彼らをiDeCoの顧客として取り込みたい金融機関にとっては、“推し”の可能性がある商品をすべて並べ、他社に顧客を取られないことが大事でした。しかし、ここからの新規加入者の多くは投資信託を買ったことがない方たちです。

企業型DCは勤務先の制度として加入するわけですから昔も今も新規加入者の多くが投資初心者です。こちらも商品数がじわじわと増えていまして、NPO法人確定拠出年金教育協会が行った調査では、15本以下が減り、21~25本を並べている会社が増えてきています。一方、同じ調査の中で、「自社の加入者はラインアップ商品を理解し・識別できていると思いますか?」という問いに対して「ほぼ識別できている」との回答が2015年は20%だったのに、昨年2022年は13.5%にまで減っています。本数が全体として増えていることが影響しているのではないかと、こちらも気がかりです。

では、なぜ追加するのか。どうも、その背景に、選択肢が多ければ多いほど良いはずだ、という思い込みがあるような気がします。そもそも、私たちには「他人に決められる」「強制される」よりも「自分で選択したい」という欲求があり、「選べる」「選択肢がある」という状態を非常に心地よく感じます。つまり「選ぶことができることは良いこと」なのです。そこから発展的に連想を拡げていくうちに「選択肢が多ければ多いほど良いはずだ」と思い込んではいないでしょうか。

逆に「選択肢を狭める」ことには「他人の選択の機会を奪う」と、商品選定に携わる方も強い嫌悪感やストレスを感じると思います。そして、商品を検討するメンバーが新規加入者への説明を担う現場から遠い人であればあるほど、新入社員が「掛金を運用する商品をこの商品一覧から自由に選択してください」と言われて呆然とする姿や、ひとつ商品を増やすことによって増える10項目ぐらいの説明、新規加入者に理解してもらう負担といったものを想像することができません。

では、「選択する」という行動をとってもらうことを考えた時、適切な本数というものがあるのでしょうか。