多すぎる選択肢は選べない
「選択」についての研究は、ニューヨークのコロンビア大学ビジネススクール教授であるシーナ・アイエンガ―教授が有名です。「ジャム法則」として知られる実験をご存じの方も多いと思います。その著書『選択の科学』によれば、その実験とは、店頭でジャムの試食販売を行う際に品揃えを6種類とする時と24種類とする時を数時間ごとに入れ替えて、立ち寄った人数と、試食をした人がその後実際にジャムを買ったかどうかを観察したというものです。結果は、6種類を並べた時に試食に立ち寄った客のうちジャムを購入したのは30%でしたが、24種類並べた時は試食した客のうち、たった3%しかジャムを購入しなかったというものです。24種類を試食した客はどれにしようか迷い、一緒に来た人にも相談したりした挙句、選ぶという行為を放棄してしまったというのです。
そして、同じ著書の中で、選択という行動がとれる選択肢について、「7±2」というマジカルナンバーを紹介しています。「7±2」というのは、人間が短い時間に識別して認識できる限界です。「選択する」という行為は、選択肢を区別して、その違いを比較し、自分の評価に順位をつけた結果の行為ですから、識別できる以上の選択肢では順位付けができず選ぶことができないと結論付けています。
企業型DC加入者が識別できる本数は10本!
そして私は、この「7±2」に近い数字を、先に上げた企業型DC担当者に調査した結果で目にしたことがあります。法令上商品ラインアップの上限本数が35本と定められる前の2015年と2016年に「加入者が運用商品を識別し選択できる最適な本数」について聞いたところ、最頻値はいずれも「10本」だったのです。
DC担当者は、加入者に掛金を運用する商品とその割合を決めてもらう最前線にいる方たちです。新入社員や中途入社の社員が特性や違いを理解して選べる商品数として出た数字が、限界値の9にほぼ等しいことに驚きました。
法定上限を議論する際も当初は10本という話もありましたが、金融機関のロビー活動、すでに多くの商品を提示している企業からの陳情などが相次ぎ、明らかに未指図者が多くなっている35本が上限として定められたという経緯があります。確定拠出年金法の法令解釈通知には「上限まで選定する(追加する)のではなく、加入者等が真に必要なものに限って」とあります。厳選された商品ラインアップが実は加入者にやさしいと言えるのではないでしょうか。
例えば、NISAも、つみたてNISAの新規口座開設数がうなぎのぼりなのは、商品があらかじめ厳選されていることも大きいのではないでしょうか。つみたてNISAのラインアップには厳しいスクリーニングがあり、商品の種類も限られていますから、選ぶ際にあまり迷わなくて済むことが投資初心者にとっては安心感にもつながるのだと思います。
一方、商品選定をする側としては、商品数を絞られた場合、何を残すのか悩ましいことになると思うのですが、それこそ運営管理機関の専門的知見を大いに発揮して、商品案を提案いただきたいものです。加えて、商品提示でも、もっと伝え方の工夫をしていただいて、新たに加入したい人が商品選びで挫折することのないようにしていただきたいと思います。