目からウロコの新制度「配偶者居住権」

義弟への資金援助が発覚してから妻との関係もぎくしゃくしたものとなり、鬱々とした日々を送っていた中で思い出したのが岩下さんでした。岩下さんとは2年ほど前に仕事で出会ったのですが、メルマガや自主セミナーの案内を継続して送ってくれていて、「熱心な人だな」と好感を持っていました。

岩下さんは税理士であるお父さんの事務所で働く2代目で、見た目やソフトな物腰は今どきの若者風ですが、「税務に限らず、その人の人生全般に渡る提案ができるようになりたくてファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得したんです」という言葉からは、強い信念と意欲を感じました。メールを送ったらすぐに返信が届き、翌週には面談をお願いすることになりました。

私の話をひと通り聞き終えた岩下さんが、「岡本さんにぴったりな新制度があります」と言って教えてくれたのが「配偶者居住権」でした。配偶者居住権とは、自宅の権利を居住権と所有権とに分け、それぞれ別の人が相続できるようにするものです。この配偶者居住権を妻に相続させることで、妻は私がいなくなった後も住み慣れた自宅に一生住み続けることができます。一方で、所有権を私の弟や甥に承継させれば、妻が天寿を全うした後は配偶者居住権が自動消滅し、自宅不動産は私の親族の手に渡るという話でした。

「なるほど」と、思わず膝を打ちました。さらに「遺言を使って奥さまに配偶者居住権を遺贈することにしておけば、遺贈は相続発生(被相続人の死亡)時点で発効しますから、相続人間の遺産分割協議を経ずに奥さまの手に渡ります」「奥さまには、配偶者居住権の発生後すぐに建物の登記をすることをお勧めします。登記は義務ではありませんが、万一第三者から明け渡しを求められたときの対抗措置になるからです」といった税務の専門家ならではのアドバイスもいただくことができました。私はすぐにも遺言を作成したいと考えたのですが、岩下さんから「その前にもう一度、奥さまと話をさせてください」と言われました。