制度自体はシンプルに設計し、金融教育でリスクに向き合う
4.「成長投資枠(仮称)」の新設
「2.年間投資枠(非課税限度額)の拡大」でも言及した、一般NISAとつみたてNISAを併用可能とする案の流れで、つみたてNISAとの併用を前提とした「成長投資枠(仮称)」の新設も検討されている。現行のつみたてNISAは投資対象が一部の投資信託に限定されているが、「成長投資枠(仮称)」は株式にも投資できるようにするとのこと。こう聞くと、2024年から開始が予定されている「新NISA」と何が違うのかと疑問に感じた方も多いと思うが、実は今回の金融行政方針の「成長投資枠(仮称)」と「新NISA」は、それぞれ異なる背景から出てきた案である。
ただし、両者には共通項がある。それは、アクティブファンドや現物株式といった積極的にリターンを追求するサテライト資産の扱いである。背景には、かつてブル・ベアファンドに代表されるレバレッジ型ファンドが、一般NISAで買い付けられていた実態に対する金融庁の問題意識がある。
前回の本連載(「レバナス」ブームを検証! 「取らなくてもよい」リスクという落とし穴)でも言及した通り、レバレッジは「取らなくてもよい」リスクであり、資産形成には必ずしも適さない。しかし、一般NISAでブル・ベアファンドを購入するような投資家は、あわよくば高い非課税メリットを享受したいという、明確な意思を持って投資している。成り行きでハイリスクのファンドに行き着いたのではなく、あくまでも自発的に選択しているのである。
こうした事情を踏まえると、レバレッジ型のようなハイリスクの商品を投資初心者に「見せない」「買わせない」ために制度を複雑化するというのは本末転倒だ。利便性の高さや投資家の裾野拡大を優先するなら、制度そのものは極力シンプルに、投資初心者が迷うことのない設計にしたほうがよい。仮に現物株を「成長投資枠(仮称)」の対象とした場合でも、過度に流動性リスクを取るなど制度設計側が意図しない形で利用される可能性は十分に考えられる。レバレッジ投資をはじめ、投資にまつわる各種リスクについては、金融教育の一貫として真正面から向き合い、根気強く投資家に啓発していく必要があろう。
以上見てきた通り、まだ不確定要素が多いNISAの改革ではあるが、改善されることはあっても改悪されることはまずない。これは確定拠出年金についても同様だ。
日本における「貯蓄から投資へ」の進捗が遅いことを手厳しく批判する向きもあるが、20年以上にわたり続いた極度のデフレ環境下で、投資の必要性を感じることのほうがむしろ難しかったのではないか。投資をすべき理由の1つは、インフレに打ち勝つため、である。言葉は悪いが、今こそ投資の必要性を訴える「絶好のタイミング」と捉えたい。