勧められるまま始めた株式投資が好調。しかし…

当時の私は、退職一時金がほぼ手付かずで残っていたこともあり、証券会社では3000万円ほどを投資信託と国債で運用していて、他にも銀行預金が4000万円ほどありました。ですから、ケーキのお礼のつもりで投資信託の一部を解約し、彼女が勧めるバイオ企業の株を購入することにしたのです。3カ月後、そのバイオ企業の海外大手製薬との提携が発表され、株価が倍近くに上昇。私は200万円を超える売却益を手にしました。

それから株式投資の面白さに目覚め、気になる銘柄をちょこちょこ売買し始めました。当然ですが彼女とのやりとりも密になり、「作戦会議」と称して2人で外食を楽しむようになりました。現役時代、女性の部下と話すのはどちらかと言えば苦手だったのですが、彼女と過ごす時間はあっという間に過ぎていきました。服装にも気を配るようになり、クローゼットの中には新しいジャケットやシャツが増えました。

やがて彼女の世間話の中に時折、会社の話題が混じるようになりました。支店の人間関係から「この投資信託を買ってくれたら、私の営業ポイントが上がる」といった内々の話まで、あけすけに話してくれるのは私への信頼の証だと思っていました。その債券の話が出たのはそうした年末のこと。彼女は潤んだ瞳でじっと私を見つめて、こう言ったのです。

「今月はノルマが厳しくて……。銀行さんに置いてある4000万円のうち2000万円で、この債券を買っていただけないでしょうか――」

●大石さんがとった行動は? 後編へ続く