言動に矛盾? 方針転換は今後の下落相場を見越してか

ビットコイン決済停止の理由として、マスク氏はビットコインのマイニングに伴う「環境負荷」を挙げている。

マイニングとはビットコインの取引記録の追記作業を行い、その対価として新規発行されたビットコインを受け取る行為のこと。追記作業はおもにコンピュータで行われるが、莫大な電力消費を伴う。

イギリス、ケンブリッジ大学のオルタナティブファイナンスセンター(CCAF)の発表によると、2020年4月時点においてマイニング全体の6割以上が中国で行われている。また、日本原子力文化財団の作成資料によると、中国ではエネルギーの約66%を石炭や天然ガスの化石燃料に依存していた。電気自動車を通じて化石燃料からの脱却を謳うテスラ社のCEOが環境への配慮を理由に挙げることは、一見筋が通っているように見える。

しかし、彼の言動を追っていけば大きな矛盾があることに気づく。自社の保有資産にまでしたビットコインの特性を把握していなかったのは、経営者として考えにくいという点だ。さらに決済可能と発表した2021年3月から停止のアナウンスまでは2ヵ月しか経っておらず、性急な方針転換にも疑問が残る。

彼の不可解な言動については、仮想通貨市場が落ち着いていく展開を見越した、相場操縦だと指摘する声もあがっている。

アメリカでは新型コロナウイルスのワクチンの普及が進み、経済再開の兆しが見えてきたことを背景として長期金利が上昇、投資ブームの過熱感は落ち着きを見せ始めていた。また、同年4月にアメリカ、コインベース社上場を節目に市場の好材料も出尽くした感が否めない時期にあった。

あるいは自社の投資家を意識した、ビットコインと少し距離を置く発言と捉えることもできるだろう。テスラ社がビットコイン保有を発表して以降、長期金利の上昇も相まってテスラ株の価格は下降トレンドにある。特にビットコインの下落相場にあるときの連動は顕著だ。

2021年はドイツ、ベルリンでのギガファクトリー立ち上げなど、テスラが取り組むべき課題も多い。テスラに期待する投資家としては、本業に注力して業績を伸ばして欲しかったところだろう。

ビットコイン以上に影響を受ける「ドージコイン」

ビットコインと同様に、マスク氏の発言で価格暴落の憂き目に遭っているのが「ドージコイン」だ。

ドージコインは柴犬のアイコンをモチーフにした仮想通貨の一つ。ほかの主要な仮想通貨に比べると使用可能な機会が少なく、実用性でいえばジョークの域を出ない。にもかかわらず、マスク氏は「クール」「お気に入り」と評し、年初以降、SNS上などで買い煽りと見られる投稿を相次いで行った。ドージコインは2021年5月8日に過去最高の1DOGE=80円近くにまでに達し、年初から約150倍にまで暴騰している。

一方で、同年5月8日にはアメリカの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」においてはドージコインを「詐欺」と発言。会話での何気ないジョークとしての一言ではあったが、番組放送前から一時約36%近く下落するなど、ドージコインも彼の言動と連動した。