河合陽太はタワーマンション内で仮想通貨投資の勧誘を行っている。日頃の派手な生活も相まって、近頃タワマン内では河合の怪しげなビジネスが噂になっていた。そんな中、河合はジムで知り合った釆澤沙織とさらに交流を深めようとしていた。
●前編:【「投資に興味ある?」タワマン内のパーティーで女性たちにささやかれる“特別なご案内”】
ついに約束を取り付ける
「車、詳しいんだね。良かったら今度ドライブ行かない?」
深夜のタワーマンションのトレーニングジム。話の流れで口にした誘いの言葉に釆澤沙織は一瞬驚いたような表情を見せたが、「いいですよ」と即答した。
「実家が地方の自動車販売代理店だったんで、車は子供の頃から身近な存在で、結構好きなんです。運転免許を取るのが待ち遠しかったくらい」
「そうなんだ。どこの販売店?」
「トヨタです」
「へぇ。僕も静岡だから、うちの親はずっとトヨタ車乗ってた」
「お互い、トヨタ系ですね。アルファードは助手席もスーパーロングスライドシートですよね。乗り心地良さそう」
その夜は、いつになく会話が弾んだ。沙織とは週末の日曜日の朝に地下駐車場で待ち合わせる約束を取り付けた。あまりにあっけない初デートの成立に、こんなことならもっと早く声をかければ良かったと思った。
ドライブはどんなコースがいいだろう? 日曜日だし、天気が良ければ首都高速を走ってレインボーブリッジや東京ゲートブリッジの絶景を楽しむか。あるいは、奥多摩で豊かな自然や温泉を満喫するか。あれこれドライブスポットを思い浮かべながら、つい、にやついてしまう。まるで初めて女の子と付き合う中学生だ。
ジムで話をしている間、沙織がずっと笑顔を浮かべていたのがうれしかった。