米電気自動車メーカー「テスラ」のCEOであり、宇宙ロケットの開発を行う「SpaceX」や再生可能エネルギーの研究支援団体「マスク財団」などの代表も務めるイーロン・マスク。同氏の言動は金融市場を左右する事例も多く、SNSへの投稿が波紋を呼び、テスラの株価を大きく下落させたこともある。特に仮想通貨市場はマスク氏の影響を強く受けていると言えるだろう。
イーロン・マスク Photo by Britta Pedersen-Pool/Getty Images
投資家や識者から「手のひら返し」「相場操縦」と揶揄されているマスクの行動の真の狙いはどこにあるのだろうか。そして彼の言動に翻弄される仮想通貨市場の今後にも迫りたい。
「イーロン砲」と乱高下するビットコイン
2020年末、ビットコイン価格は過去最高高値を更新する勢いで高騰した。米大手決済企業ペイパル(PayPal)が同年10月に仮想通貨の取引・決済サービスを段階的に開始することを発表したことや、コロナ禍での世界的な金融緩和で現金が仮想通貨市場に大量に流れ込む余地があったことが要因と考えられる。結果として、ビットコイン価格は一時、1BTC=700万円にまで迫った。
しかし、その後大幅に下落。2021年5月23日時点では400万円近辺で推移している。
ビットコイン価格の激しい乱高下の背景には大手企業での利用の促進だけでなく、イーロン・マスクのTwittw上での投稿――「イーロン砲」がその一因となっているとの見方もある。そこで、年初からビットコインが過去最高値に達した2021年3月までにおける、ビットコインに関する主な彼の言動をおさらいしよう。
1月29日:Twitterのハッシュタグに#bitcoinを突如追加
2月8日:テスラ社が15億ドル相当のビットコインを購入し、企業資産に組み入れたことを公表
2月19日:ビットコインを「現金よりまし」とツイート
3月24日:ビットコインでテスラ車の購入が可能になると発表
S&P500に入る大手企業として初めて、ビットコインを資産保有したとの発表は彼の革新性を喧伝するものだった。続く決済受付のアナウンスも投資家の関心を大いに集め、仮想通貨の企業利用促進に向けて市場の期待は膨らんだ。
発表当日の終値は、前日から約5.5%増で623万円に。しかし、4月半ばに突入するとビットコインの過熱感は徐々に落ち着きを見せ始め、相場は下落傾向に。マスク氏の言動も急転していく。以降の主な出来事は次の通りだ。
4月26日:テスラ社保有の一部のビットコインを売却したと公表
5月13日:環境負荷を理由にテスラ製品のビットコイン決済を停止
イーロン・マスクTwitterより
5月16日:テスラ保有のビットコインの売却を匂わすツイート
5月19日:テスラはビットコインを売ってないとツイート
イーロン・マスクTwitterより
5月13日の発言を受けてビットコイン価格は暴落、同日の終値は前日から約12%減となる543万円まで落ち込んだ。同月17日以降、価格は比較的低水準で推移している。マスク氏も自身の言動が仮想通貨市場に波紋を呼ぶことを予想していなかったわけではないだろう。なぜ、このような方針転換を行ったのか。