――米国市場を40年以上にわたってウォッチしてきた立場から、現在の株式相場についてどのように見ていますか。

米国株のパフォーマンスはここ数年、非常に好調でしたが、その結果として市場からの評価(バリュエーション)は、もはや過去最高水準に達しています。

NISA拡充によって日本でも米国株の人気が高まっていますが、個人投資家にせよ機関投資家にせよ、米国株のバリュエーションの高さというリスク要因については十分に注意する必要があるでしょう。

すでに、超富裕層向けに資産管理・運用を手掛けるファミリーオフィスなどは、米国株偏重のポートフォリオの見直しに動き出しています。特に、金(ゴールド)や仮想通貨といった「実質資産」を組み入れる動きが広がってきています。

 

――廣田さんが「実質資産」と呼ぶものは、具体的にどういったもので、一般的な実物資産とはどう異なるのでしょうか?

実質資産とは、供給量が限られている希少性の高い資産のことです。具体的には、金や原油、天然ガスといった資源、さらには不動産などのいわゆる「実物資産」に加え、ビットコインのような暗号資産、そして日本など各国コンテンツ産業で生み出されるIP(知的財産)などを含めて、希少性や有限性の観点から「広義の実質資産」として捉えられます。

こうした実質資産への注目が高まっている背景には、長らく続いてきたドルを基軸通貨としてきた体制の揺らぎと、世界的な貨幣の増加があります。

これまでの経済成長は、各国政府や中央銀行が紙幣を増刷することで支えられてきました。ところが、金融危機やコロナ禍を経て、その増刷量はかつてないほど膨れ上がっています。

 

――各国の金融政策次第では、この風向きが変わる可能性もあるのではないですか。

各国中央銀行の政策判断に多少のばらつきはあるにせよ、この基本的な傾向は、今後も長期的に続くと考えるのが自然でしょう。というのも洋の東西を問わず、政治家たちは選挙に勝つため、経済を刺激するために最も手軽な「通貨供給量の増加」という手法を選択しがちだからです。

現在の金や暗号資産の価格上昇は、理屈上は無限に増やすことのできる貨幣価値が低下し、実質資産の価値が相対的に高まるという分析に基づいて支えられているのです。

代表的な実質資産といえば、やはり金と暗号資産が挙げられるでしょう。

金に関しては過去25年間の累積のパフォーマンスを見ると、米国株(S&P500)を上回っています。これまで多くの投資家が、「配当金が出ないから金投資は魅力がない」といった感情論で金に対して距離を置いてきたようですが、実績の差がいっそう明らかになっていることで風向きが変わりつつあります。直接投資だけでなく、現物の裏付けのあるETFを利用したり、採掘権のロイヤリティ収入を得ている企業など、金の価格上昇による恩恵を受ける企業の株式にしたりといった手法も有効でしょう。

また、暗号資産の代表格であるビットコインについては、発行上限が2100万枚とプログラムによって厳格に定められており、これは金と同様に希少価値を持つことを意味します。また、AIのデータセンター建設に伴う電力不足・水不足といった新たな課題の顕在化も、実質資産としての資源の価値を中長期的に高めていくと考えています。

 

――さきほど米国株への集中リスクに対して言及がありましたが、米国外の選択肢として海外投資家は日本企業をどのように見ているのでしょうか。

米トランプ政権の発足以降、一連の関税措置発動によって日本企業は翻弄されました。今後も一部製造業は影響を受けるでしょう。

しかしそれでもなお日本市場は、優良な割安銘柄を発掘するバリュー投資家から見れば「宝の山」です。適時適切に変革を断行できる経営者がリーダーシップを発揮することで、企業価値を高められるポテンシャルを秘めた企業が、この国にはまだまだ存在すると確信しています。

特に、アニメや漫画、ゲームといった日本のコンテンツ産業には、大きな成長余地があります。これらは日本の独自性が強く、世界市場で競争力を持っています。コンテンツ制作会社は動画配信サービスに作品を提供してロイヤリティ収入を増やし、ビジネス効率を向上させています。こうした知的財産を有する企業群も、広義の実物資産銘柄であると言えます。

一方、日本企業はガバナンスに課題を抱えているケースが少なくありません。特に、本業とほとんど関係のない事業を多数抱えるコングロマリット企業は、資産の有効活用や経営の効率化が阻害され、企業価値が市場に十分に評価されない場合があります。逆に言えば、日本株式市場の透明性の向上については、海外投資家のマネーを取り込む上で、非常に大きな伸びしろがあると言えるでしょう。

 

――最後に、日本の個人投資家へのメッセージをお願いします。

近著でも指摘したのですが、これまで世界経済の前提となってきたドル基軸通貨体制が、米中対立の激化とロシアとウクライナの戦争をきっかけに揺らいでいます。トランプ氏による政権運営の予測の難しさ、自国主義的な姿勢もアメリカ不信・ドル不信に拍車をかけています。こうした状況下ではなおさら、米株一辺倒のリスクについて今一度、意識すべきでしょう。

投資の世界は、多くの人が興味を持たないときにこそ、大きなチャンスが眠っています。「金は儲からない」「暗号資産は危ない」といった固定観念にとらわれず、客観的なデータに基づいてご自身の目で判断することが重要です。

 

 

ワイズマン廣田綾子氏

東京都生まれ。国際基督教大卒。1983年、スイスの経営大学IMDでMBAを取得。84年に渡米後、証券アナリストに。87年より米国株投資担当のファンドマネジャーとして年金基金や労働組合等の米機関投資家の資産運用に携わる。2000年よりヘッジファンドに移籍し、日本株のロングショート戦略で資金運用を担当。10年より現在在籍しているホライゾン・キネティックス社でアジア戦略担当のディレクターとして、日本を含むアジア市場での運用担当に。Nippon Active Value Fund社外取締役、SBIホールディングス、東芝で社外取締役を歴任。現在、米国ニューヨーク州在住。著書に『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』(日経プレミアシリーズ)。