東証プライムに上場する産業ガス大手エア・ウォーター社の不適切会計処理が明らかになり、一時ストップ安となるなど株価も大きく下落しています。
こうした不祥事を個人投資家が事前に見抜くことはできるのでしょうか。
つばめ投資顧問のアナリストの元村浩之さんが解説します。

※本記事は2/21につばめ投資顧問にて公開された「不適切会計で株価急落のエア・ウォーターは買い時?「危険な銘柄」の見抜き方」を編集の上、元村氏による特別コメントを付して掲載しております。

不祥事の前から積み重なる「違和感」【特別コメント】

粉飾は突発的な事件というより、いくつかの違和感が積み重なった末に表面化します。

とりわけ重要なのは、損益計算書だけで企業を判断しないことです。売上や営業利益が滑らかに右肩上がりでも、フリーキャッシュフローが安定的に積み上がっていなければ、その成長は実体を伴っていない可能性があります。利益は会計処理の影響を受けますが、キャッシュの動きはごまかしにくいからです。

積極的なM&Aを続ける企業では、買収後にどれだけ価値創造に相乗効果が生じているかを見極めることが大切です。規模が拡大しているのに手元資金が一向に増えない場合、投下した資本に見合うキャッシュ創出力が伴っていない可能性があります。M&Aは買収代金だけでなく、統合コスト、設備更新、在庫や運転資金の増加など、追加で資本を食う局面が少なくありません。もし統合(PMI)が想定通り進まず、利益率や回転率が改善しないまま事業が複雑化すると、見かけ上の売上や利益は増えても、資本効率は上がらず、結果としてフリーキャッシュフローが積み上がりにくくなります。つまり、図体だけが大きくなり、株主が期待する「相応の価値創造」が実現していない、ということです。ここはROIC(投下資本利益率)や営業CFの質、運転資本の増減をセットで見て、価値を伴う成長ができているのかを確かめたいところです。

トップのメッセージにも気を配りたいところです。数値目標や規模拡大を強調する一方で、顧客価値や内部統制への言及が乏しい場合、現場に過度な圧力がかかっている可能性があります。ここは、過去に遡って開示資料や記事を丁寧に読ことで、ある程度の傾向は把握できるようになります。こうした地道な作業を通じて得たスキルは、長期投資を実践する個人投資家の強い武器となります。

長期投資において大前提となるのは、成長の土台が健全かどうかを見極める姿勢です。そのうえで、どれだけのスピードで成長できるのかを考える。順番を誤れば、数字の勢いに目を奪われ、本質的なリスクを見落としかねません。利益よりキャッシュ、規模より資本効率。その基本に立ち返ることが、持続的な企業を選び抜く力につながるのではないでしょうか。