——国民の金融リテラシーの現状をどのようにみていますか。
日本の家計金融資産は2023年末時点で2141兆円と、米国の8分の1ほどにすぎません。国民1人あたりの額で比べても、日本の約1700万円は米国の3分の1にとどまります。
日米でこれほどの差がついた理由としては、まず日本の家計金融資産の半分が現預金であるという点が挙げられます。日本では「投資しなさい」という教育がほとんどありませんでしたが、実は投資大国の米国でも投資教育が本格的に始まったのはそれほど昔の話ではなく、世界的に株価が暴落した1987年10月の「ブラック・マンデー」以降のことでした。
米国の投資教育の歩みは日本にとっても大いに参考になります。その一方で、米国と異なり日本は「国民皆年金」の国ですので、各種の社会保険の保険料と将来の受給額との関係を知っておく必要があります。住宅ローンや民間の生命保険のしくみについても理解を促さなければなりません。そして公的年金や民間保険・ローンなどと並列の位置づけで、資産運用としての分散投資の必要性を教えることが望ましいでしょう。NISAやiDeCo、企業型DCなどを一通り解説した上で、「貯蓄と投資のバランス」の大切さを習得できるようにすべきです。あくまでも投資は余裕資金で行うものだという認識を広め、生活費の工面や住宅ローンの返済もままならないのに、いかがわしい金融詐欺に引っかかってしまうような事例を減らしていきたいですね。
——金融経済教育推進機構(J-FLEC)に期待することは。
J-FLEC は早期に1000人規模の認定アドバイザーを確保する方針です。アドバイザーはオンラインや電話で資産形成や金融サービスに関する個別相談を受ける役割を担うことになっていて、アドバイザーの質も担保しなければなりません。
一方、認定アドバイザーにAIを悪用した「なりすまし」が紛れ込む可能性を危惧しています。なりすましに関しては堀江貴文氏や前澤友作氏といった著名な実業家とも意見交換していますが、彼らのような有名人のなりすましであれば見破るのも容易です。大半の認定アドバイザーはほとんど世に知られていないわけですから、ニセモノを特定するのは困難です。この点では行政にさらなる対策を促していきます。
――党金融調査会は3月に岸田文雄首相へ示した「金融経済教育推進機構の設立に向けた提言」のなかで、「教育を受けた個々人が自らの金融リテラシー向上を実感できるような仕組み(検定等)の整備について検討すべきである」と明記しました。検定制度の狙いは。
4月に発足したJ-FLECはKPIとして、金融広報中央委員会(知るぽると)が国内で実施している金融リテラシー調査の正答率を、現状の40~50%から欧米並みの70%に引き上げると唱えています。J-FLECの取り組みが日本国民の金融リテラシー向上に役立っていると実証するには、やはり新たな検定制度を整えて政策効果を測る必要があります。
試験を実施するには会場の確保や監督、オンライン受検の運用など、かなりの手間がかかります。J-FLECは人員が少ないため、試験を単体で主催できるだけの余力がありません。新たな検定制度は試験のノウハウを持つ民間企業と共催する形になるでしょう。2025年の半ばにはスタートさせたいですね。
加えて将来的には、学校教育のカリキュラムでも金融リテラシーの試験を課すべきです。近年、デジタル通貨やブロックチェーンなどの活用をかたる詐欺の被害が大学生の間で急増しています。中学や高校の段階から「リスクとは何か」をしっかり教えておけば、悪質な詐欺に引っかかる学生を減らすことができます。高校の家庭科などで金融教育が始まりましたが、段々とコマ数を増やしてゆき、ゆくゆくは教育の定着度を測る試験までカリキュラムに含めていきたいと思います。