問題が山積する愛理
「こんなに何に使ったの」
敦美が明細を指さしても、愛理は答えず目を伏せたままスクロールする。話を打ち切ろうとするそぶりに、敦美は即座に返した。
「別に何でもいいでしょ」
「自分で払えるならね」
その言葉に、愛理の指が止まった。沈黙のあと、短く息を吐く。
「……推し活」
「推し活?」
「チケットとか、遠征とか。あとグッズ。いろいろタイミングが重なったの」
「それでこの金額?」
「分割にしたら、いけると思った」
敦美は急がず、再び督促状に視線を落とした。脅したいわけではない。現実を見せるためだ。だが、まだ愛理は「わかってる」で済ませようとしている。
「あなた、大学はどうなってるの?」
問いを変えると、愛理は反射的に顔を上げた。
「え……なんで関係あるの」
「バイトも推し活もしてて、授業に出る暇あるのかと思って。最近、大学の話を全然しないし」
愛理は口を開きかけて閉じ、スマホの画面を消した。沈黙が伸びていく。
「単位は取れてるの?」
再び問うと、愛理は力なく首を横に振った。
「……何個か落としてる。出席、足りなくて」
「何個かって、いくつ」
「ちゃんと数えてない」
敦美は奥歯を噛んだ。「数えていない」という言葉が、今の状態を象徴していた。
共働きだからこそ、幼い頃から「自分のことは自分で」が基本だった。中学以降は、干渉しすぎないように距離を取っていた。だからこそ、こんなふうに崩れるまで気づけなかったのかもしれない。
「どうせ私のこと、だらしないって思ってるんでしょ。お母さんと違って、計画性ゼロだもんね」
「そんなこと言ってないでしょ」
敦美は語尾を柔らかく抑え、椅子の脚が音を立てないように前のめりになる。
「でも、あなた1人じゃもう回ってないのは確か。続きは、お父さんが帰ってきてから話そう」
愛理は唇を噛み、視線を落とした。敦美はテーブルの上の2通の紙を揃え、まっすぐ置き直した。
●娘・愛理に届いたカード会社からの督促状。請求額は18万円で推し活による出費が原因だった。さらに大学の単位も複数落としていることが判明し、母・敦美は夫の帰宅を待ち、家族で話し合うことに…… 後編【「月2万ずつ返して」18万円を肩代わりした両親が娘に課した約束…“推し活”で崩れた大学生活を立て直す家族会議】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
