カード滞納を問い詰める母
玄関の鍵が回る音がして、敦美は椅子から立ち上がった。軽い足音のあと、「ただいま」とリビングのドアが開く。
「おかえり」
そう返しながらも、敦美の視線はテーブルの2通の封筒に戻った。
夫はまだ帰っていない。今夜中に話すとしても、最初の一手を誤りたくなかった。まずは事実確認。
敦美はそう決めて、背筋を伸ばす。
「愛理。こっちに来て。話がある」
敦美の声は低く落ち着いていた。愛理は振り返り、眉をひそめる。
「なに。疲れてるんだけど」
「私もよ。だから手短に話そう」
そう言って、敦美が封筒を指で示すと、愛理の顔色が変わり、手が封筒に伸びた。
「ちょっと、これ勝手に……」
「開けてないわ。今日届いたのはそのまま。こっちは、あなたの机に置きっぱなしだったものよ」
「見たの?」
「ええ、確認した。請求は20万円近く。期限も迫ってるみたいね」
愛理は口を尖らせる。
「わかってるって。あとで払うから」
「“あとで”って、いつ? 払えないからこうなってるんじゃないの?」
愛理は一瞬こちらを見たが、すぐに目を逸らす。そのまま黙って自室へ戻ろうとする背中に、敦美は呼吸を整えて言葉を選び直した。
「放置すれば遅延損害金がつくし、カードも止められる。督促の電話や郵便も増えるよ。今日中に状況を確認して、動けるなら動く。無理ならどうするか決めなきゃ」
「別に、そんな大ごとじゃ——」
「大ごとにしないために、今やるべきことをやるの」
愛理は目を伏せ、乱暴に息を吐く。
「ほんと、うるさい」
「うるさがられても言う。大事なことだから」
愛理は返事をせず、代わりにスマホを握り直す。後ろめたさはあるようだが、反省しているようには見えない。この場から逃げたいだけ——敦美にはそう見えた。
