玄関のドアを閉めると、外の冷気が遠ざかった。敦美は肩から仕事用のバッグを下ろし、コートの前ボタンを外すと、郵便物を確認する。

「これはお父さん、これとこれはゴミ箱……」

ポストから引き抜いてきた紙の束を、リビングのテーブルに広げる。公共料金の通知、広告、自治体からのお知らせ。その中に、厚めの白い封筒が混ざっていた。差出人はカード会社。宛名は愛理で、「親展」の印がある。

「愛理……」

呼びかけようとして、シューズラックにスニーカーがなかったことを思い出した。

大学3年の娘は、まだバイト先から帰っていないようだ。ダイニングの席に置いてもいいが、何日も放置されるのが目に見えている。

「はあ……仕方ないわね」

敦美は封筒を持って階段を上がり、愛理の部屋へ向かった。ドアを開けると、机の上は散らかっていた。ノート、ペン、イヤホン、飲みかけのペットボトル。その中に、同じカード会社からの封筒が、開封されたまま置かれている。中の紙が半分ほど飛び出しており、太字の見出しが目に入った。

「口座振替ができませんでした」

敦美は一瞬、自分の目を疑った。

書類を封筒から抜き取り、素早く目を通す。請求額は約18万円。振替不能の理由は記されていないが、期限を過ぎれば遅延損害金が発生するとも書かれていた。

金額と期限だけを頭に入れ、紙を封筒に戻す。前回の案内が放置されていたのだとすれば、今回の封筒は最後通告と考えるのが自然だった。

「……何をやってるの、あの子は」

愛理がカードを作ったのは、大学に入学したとき。ネットでの支払いが増えるし、学割のあるカードが便利だと自分で言ってきた。夫婦で話し合って了承し、管理は本人に任せた。使うなら、支払いも自分で責任を持つ——それが大前提だった。

「とにかく話をしないと」

リビングに戻ると、テーブルの上に2通の封筒を並べ、もう一度、期限の日付を頭の中で反芻する。玄関の鍵が回る音を待つ間、時計の秒針だけがやけに耳に響いた。