由利のためにさつきが提案
さつきは立ち上がった。
「まあでも今回のことは母さんには黙っておきましょう。さすがに借金があるとかってなったら驚かせちゃうからね。この借金に関しては私が何とかするわ。だからあなたもいつまでもこんな生活してないできちんと再就職ができるように頑張りなさい」
さつきの提案に由利は目を丸くする。
「……お姉ちゃんが何とかするって?」
「私がお金を貸しておいてあげるわ。それで返済に充てなさいよ」
「い、いいの……?」
由利に聞かれてさつきはしっかりと頷く。
「家族でしょ。当たり前よ」
出費はもちろん痛いのだが、家族が困っているのだから当然のことだと思った。それに、由利の苦しみに気付いてあげられず、誤解をしてしまっていたことへの贖罪の意味もあった。
「ほら、とにかく一旦外に出て美味しいものを食べに行きましょう。まともに食事もしてないんでしょ。何をするにもまずはご飯よ」
さつきがそう言うと由利は戸惑いつつもはにかんで笑ってみせた。きっとこれが由利の本当の笑顔なんだろうなと思った。
由利から大事な報告
それから、由利はさつきの援助のおかげでひとまず借金を返済し終えた。それと同時に派遣会社に再び登録をしてとある企業の事務職をするようになっていた。
1度契約解除になってからは再び同じ目に遭うのが怖くて派遣は嫌だったらしいのだが、家族の支えがあるからもう一度やってみようと思って登録をしてしっかりと業務をこなしている。
そうして1年が過ぎたころ、由利から驕るから食事に行こうと誘われた。指定されたのは高そうなレストランで、中に入るとすでに由利が席についていた。
座ってすぐにさつきは由利に小さな声で話しかける。
「ねえ、大丈夫なの? こんな高そうなところでご飯なんて」
「大丈夫だよ。実は今日は大事な報告があってさ」
「報告?」
「うん、私ね今の会社で正社員として働くことになったんだ」
由利の報告に大きな声が出そうになったので慌ててさつきは両手で口を塞ぐ。
「よ、良かったね。おめでとう」
「全部姉さんのおかげだよ。ほら今日は二人で好きなだけ美味しいものを食べようよ」
そう言って由利はメニューを差し出してきたけれど、メニューを見ながらさつきは胸いっぱいで何も食べられそうにないなと思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
