入浴も着替えもほとんどなしの現実
「文書にまとめる……。一体どのようなことをまとめればよいのでしょうか?」
母親は一層不安な表情をみせました。
そこで筆者はいくつかの質問をし、母親から慎吾さんの様子を聞き取ってみました。すると次のようなことが分かりました。
慎吾さんは表情が乏しく、喜怒哀楽を表現することがほとんどなくなってしまったそうです。動作はゆっくりで、急な出来事に対して危険から身を守ることも難しくなりました。
物事に対する興味関心も薄れ、テレビを見る、漫画を読む、インターネットを利用するといった日常生活を楽しむための行動を起こすことも一切しなくなりました。
ゆっくり話さないとその内容が伝わらないことが多く、母親の言っていることが理解できない時は、眉を八の字にさせて口を半開きにしたまま困ったような表情になるそうです。
脳の機能が低下したためか、簡単な計算もミスする、漢字が出てこない、先ほどまでしていたことを忘れてしまいます。
通院などの外出するきっかけがなければ入浴も着替えもほとんどしません。あまりにも体臭がひどくなると、母親に何度も促されしぶしぶシャワーを浴びる、着替えをするといった状況にあるとのことでした。
この簡単な聞き取りだけでも、慎吾さんの日常生活が非常に困難であることが伝わってきました。
「今お話しいただいたようなことを、日常生活の困難さの項目ごとにまとめていきます。ご家族でまとめるのが大変なようであれば、私の方で行うこともできます。ご長男の同意があれば、請求まで私がご協力できます」
「それは助かります。私たち家族だけではできそうにないので、よろしくお願いします。長男にも事情を伝えます」
母親はそのように言いました。
無事に障害基礎年金の2級が認められる
母親との面談後。慎吾さんの同意を得た筆者は、家族からのヒアリングを重ね慎吾さんに関する文書を作成。その文書を医師に渡し診断書の作成を依頼しました。
請求に必要なその他の書類もそろえた筆者は、障害基礎年金の手続きを完了させました。
そして請求から3カ月がたった頃。母親から「無事に障害基礎年金の2級が認められた」との連絡を受け、筆者もひと安心できました。
あれから10年以上がたちますが、その後母親から助けを求めるような連絡はありません。就職氷河期という厳しい時代に翻弄されてしまった慎吾さん。現在、慎吾さんがどのような生活をしているのか知る由もありませんが、今も母親の支援を受けながら障害基礎年金を受給し続けているのかもしれません。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。